今やほどんど語られる事の無くなった大正時代の作家、葛西善蔵の貴重な評伝です。忘れ去られている作家、ということから、一見、「ファンか、同郷の作家による偏見いっぱいの伝記かな」と思ってしまいましたが(私は文庫版になる前に読んだので、より一層その過感がありました)、中身は主要な同時代からの周辺資料もきちんと使われている「まともな」評伝に仕上がっています。「おせいさん」と、影の薄い葛西の「妻子」のその後の話が聞けたのが良かったです。これから読む方々のためにあまり書きませんが、葛西の人間としてと彼の作品(制作)の「甘さ」がわかる終わり方になっています。本当の「悲惨」とは、他人にめちゃめちゃにされた人生を生き抜くこと、というメッセージがあります。葛西善蔵という今となっては「超』マイナーな作家を丁寧に扱っているという事と、このとても心に残る終わり方で文句無く☆5つです。
葛西の小説のどれもこれもが、小説家でありながら小説が書けないジレンマとの葛藤を強いられてできた作品なので、ある種の何か異様な感じがする。 絶筆は、これ狂気の世界の一歩手前のことであろう。どうも精神的に普通でない人が、普通の文章を書くための苦労であろう。 レビューもなにもこの葛西の作品は受け付けない、批評のしようのないある哀愁感がある。 特異な小説だが、一読の価値はある。個人的には評価しないが、特異性での評価である。
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