幕末の大老井伊直弼が,味噌っかすのような境遇から一躍大藩の藩主を継ぎ, 大老の重責を負ったまま桜田門に倒れるまでを小説化したもの 私はこれまで,主人公井伊直弼については,ただ傍若無人のワンマンであるかのような印象を持っていたのですが, なるほどこういう状況ではあのようなやり方も仕方なかったのかな, むしろそれが必要なことだとよく見ぬいていたのかもしれない, などと,ややイメージを改めました。 前半のストーリーは,男女関係が前面に出されたやわやわしたもので, 森鴎外の歴史小説のようなドライなのどごしを期待していると肩透かしを食います。 しかし,それが作者自身のねらい通りなのか,読みやすく,そして気軽に楽しめる小説だと思います。
流れるような文体に一気に読み終えてしまいました。
桜田門外の変を集団テロと断罪する怒りにみちた表現に今までの歴史小説の
読後感にない気持ちになりました。
「歴史は勝者によって作られる」と歴史の多面性の面白さを改めて感じます。
非常にきれいな作品です。
「悉皆」(しっかい)とは不思議な響きのことばだが、 要するに「全部、一切」のこと。 反物・着物の染め、染め替え、洗い張りなど 仕立て・仕上げの始末「全部、一切」を請け負った「悉皆屋」は、 和服全盛の太平洋戦争前までは無くてはならぬ仕事だった。 本書は、その悉皆屋を主人公にした、渋いが味わいの濃い傑作。 書かれたのは戦争中だけれども、全然古臭い小説ではありません。 東京本所生まれの作者は、江戸の風致を熟知しながらも、 いたずらに回顧趣味に耽らず、時代と人物が見事に描かれていて好ましいです。
御本人も京都の和服の店に育った、松岡正剛はこう評しています。 《さんざん苦労をしながらも悉皆屋としての、男としての本望を遂げていく。 のちに佐々木基一はこの作品は『細雪』に匹敵するといい、 平野謙は「日本文学者全体が誇りとすべき作品」と褒めた。 旧「文学界」の同人仲間だったとはいえ、 亀井勝一郎は「自分はあえて昭和文学史上の代表作といって憚らない」 とまで絶賛したものだ。 正直いって、そんなに褒めたくなるような作品ではないのだが、 たしかに読んでいてまことに気分がすっとしてくる。》
自分は、働くことの意味は、今も昔も変わらないと思いました。 丁稚奉公など下積みの苦労、認めてくれる人、騙す人など、 登場人物も多彩で、陰影も鮮やか。……かといって、 関西風のいわゆるエゲツナイ商売成功譚ではないので、御安心を。 また、かつて文庫化した文藝春秋は、解説に泡坂妻夫(実家は神田の絵師)をあて、 今回は、出久根達郎(茨城県出身、中学卒の集団就職を経験)。 いずれにしてもこういう佳品を文庫化するにあたって、 担当した編集者の趣味と意気込みが伝わります。
「悉皆」(しっかい)とは不思議な響きのことばだが、 要するに「全部、一切」のこと。 反物・着物の染め、染め替え、洗い張りなど 仕立て・仕上げの始末「全部、一切」を請け負った「悉皆屋」は、 和服全盛の太平洋戦争前までは無くてはならぬ仕事だった。 本書は、その悉皆屋を主人公にした、渋いが味わいの濃い傑作。 書かれたのは戦争中だけれども、全然古臭い小説ではありません。 東京本所生まれの作者は、江戸の風致を熟知しながらも、 いたずらに回顧趣味に耽らず、時代と人物が見事に描かれていて好ましいです。
御本人も京都の和服の店に育った、松岡正剛はこう評しています。 《さんざん苦労をしながらも悉皆屋としての、男としての本望を遂げていく。 のちに佐々木基一はこの作品は『細雪』に匹敵するといい、 平野謙は「日本文学者全体が誇りとすべき作品」と褒めた。 旧「文学界」の同人仲間だったとはいえ、 亀井勝一郎は「自分はあえて昭和文学史上の代表作といって憚らない」 とまで絶賛したものだ。 正直いって、そんなに褒めたくなるような作品ではないのだが、 たしかに読んでいてまことに気分がすっとしてくる。》
自分は、働くことの意味は、今も昔も変わらないと思いました。 丁稚奉公など下積みの苦労、認めてくれる人、騙す人など、 登場人物も多彩で、陰影も鮮やか。……かといって、 関西風のいわゆるエゲツナイ商売成功譚ではないので、御安心を。 また、かつて文庫化した文藝春秋は、解説に泡坂妻夫(実家は神田の絵師)をあて、 今回は、出久根達郎(茨城県出身、中学卒の集団就職を経験)。 いずれにしてもこういう佳品を文庫化するにあたって、 担当した編集者の趣味と意気込みが伝わります。
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