限界ザクティ革命 第二部 その2
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殺戮にいたる病 (講談社文庫)

まんまと騙されてしまった。

謎解きができるほどの頭を持ち合わせてないので、この際まんまと騙されてみようと考え、簡単な構えで読んだ。
案の上、クライマックスを向かえると頭の中は疑問符で埋め尽くされる。
巻末の解説、読み返してみて、「なるほど、そういうことだったのか」とすべてに合点がついた。

作者が用いるトリックは実に簡単なもの、しかし一度足を掴まれるとそれが最後。作者の巧みな技巧が光ります。




文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

圧倒的な文章をものする作家としてもはや確固たる地位を築いた京極夏彦が、一方でまたデザイナーとして装丁の分野でも活躍している事はファンの間ではすでに有名だ。その彼が自らの衝撃的デビュー作である本作をブローアップ、美しい四六版ハードカバーに再生させた。デザインはもとより紙質からフォントにまで拘ったまさに「職人のワザ」、書痴・京極堂ならではの美本となった。内容は最初のノベルズ版ではなく講談社文庫版を底本としており、特に新しい部分が加筆されているというわけではないが、実は購入者特典として、短編「川赤子」の豆本が貰える引換券がついている。ファンとしてはむしろこれ目当てに購入を決意する人も多いのではないか。



8・15と3・11―戦後史の死角 (NHK出版新書 388)

日本人が「空気を読むこと」を重視して、肝心な問題を先送りにする傾向があるという批判はよくみかける。
だが、その原因を思想史的に深く追跡している社会評論は意外に少ない。

戦後体制の批判にしても、現代思想が用いている論理を使ってパターン化された近代理性批判を行う保守派がいる。
原発再稼働についても、単に「それが危険であるから」という理由で批判し、
日本古来の神道の神々を対比的に持ち出してアニミズム的霊性に回帰しようとする論述が多い。
それはそれで間違いではないのだが、
本書の独創性は、これらの思想を俯瞰しつつ、
戦後史の死角に光を当てることで、どのパターンでもない新しい社会批判をある程度提出している点にある。

本書において笠井潔は、日本古来のアニミズム的霊性こそが「アニマ=空気」を読むという独特な日本的イデオロギーを生成したと分析している。
笠井によれば、八百万の神が支配する無時間的なイデオロギーは、空気が全てを支配し、そこには歴史的意識が存在しない。
こうした「歴史に対する反省意識の欠如」こそが、
中国との19世紀的な価値観での戦争や、「敗戦」を「終戦」と読み替える行為、
そしてあらゆる問題を曖昧にして先送りにするという日本精神の自己欺瞞的な病理が生まれたという。

本書はこの極めて日本人的な問題を55年体制から高度成長を経て、ソ連崩壊、9.11を経たグローバル化、福島第一原発事故にいたるまで、
吉本隆明、丸山貞夫、小田実、三島由紀夫、江藤淳、和辻哲郎、鈴木大拙などの思想を横断しつつ、批判的に展開している。

笠井氏の著作にしては文章が比較的読みやすく、社会評論をあまり読まない読者の方でもオススメできると思う。
展開的に、五章から終章にかけてがやや駆け足になっており、ここにもう少し厚みが欲しいと思った。
また、ここで提出された理論それ自体ももう少し詳細な検討が必要かもしれない。
この辺は今後の著作に予定されていると思うので、そちらを期待したい。

新書ではあるが、日本的アニミズムという新しい観点で戦後史をもう一度冷静に反省し、
左右どちらの思想にも回収されない社会批判を展開している点で、他とは一線を画する一読の価値がある著作である。

星4つか5つかで迷ったが、一般的な読者層でも戦後史の復習的に読めるということと、
社会評論として比較的新しい観点を提出しているところから5つとさせていただいた。



ヘアピン・サーカス [DVD]

 現代の映画のように複雑な伏線や驚くような結末などはない。
むしろ当時としても話は非常に単純である。
主演の見崎清志氏は俳優でなくプロのレーサーでヒロインの江夏夕子氏もA級ライセンスの保有者との事。
そんな演技が本業でない人間を主役に起用しているが、クールで倦怠感のある男を上手く演じたと思う。

深い理由などなく享楽的にスポーツカーで夜を疾走する者たち。
結末は一見勧善懲悪的に見えるが、主人公のエゴの結果でもある。

プロデューサーの安武龍氏はバニシングポイントなどアメリカンニューシネマの影響を受け、日本でも今迄に無い感性の作品を創ろうとしこの作品を完成させたとの事だがその意図は見事に成功している。

当時のファッションや街の様子を観ているだけでも興味深いが、主人公の気持ちと同様、全編を通して突放したような冷めたような物語は現代の作品と比しても劣る事無く素晴らしい。



バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

矢吹駆シリーズ1作目。本シリーズは推理小説として刊行されていますが、思想・哲学が前面に押し出されています。私見ですが、筆者の思想・哲学を表現する手段として推理小説の形態をとっていると云っていいでしょう。

舞台は1970年代のフランス。首斬り死体を発端とする事件を、フッサールを筆頭とする現象学的直感を用いて推理?します。特別な推理をする訳ではなく、調査で判明した多くの事象から組み立てられる無数の論理的解釈を、直感から導かれる事件の本質を辿って紐解いていくというものです。

「バイバイ、エンジェル」で扱われている主題は革命論と観念論であり、矢吹駆と犯人が思想対決を繰り広げます。一言で云うと、人は革命という名の観念に憑かれ人を殺す、その是非を問う、といったところでしょうか。

語り手が普通の人(主にヒロインのナディア・モガール)なので、別に小難しい事を知ってたり考えたりしなくても、推理小説として十分に楽しめる完成度です。ですが、事件が起こって探偵が乗り出して解決するだけのトリックネタ重視の作品とは一線を画していますので、ただの推理小説として捉えるだけでは惜しいと思います。



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