1976年に講談社から出た単行本の文庫化。
壇一雄は「日本の三大美食エッセイストのひとり」と評されているらしいが、まさにそのとおり。素晴らしい本だった。
軽妙な文章、豊富な食の体験、奥深い人間性と三拍子そろっていて、文章を通して美味しさが伝わってくる。
エッセイの一篇一篇はわずか数頁だが、スッポン、濁り酒、ジュンサイ、ジネンジョなど、いずれの話も印象深い。飾らない文体も心地よい。
一気に読んでしまうのはもったいない一冊。じっくりと味わって欲しい。
安吾もいいがこの人もいい。もっと早くめぐり合っていれば、と思う作品。下巻はロンドン、パリから日本帰国後、九州など。あるがままに生きることへの熱い思いが伝わる。
日経新聞の連載を楽しみに読んできました。
こんなに早く単行本化されるとはとの驚きもともに、再読しました。
錚々たる顔ぶれとの寂聴さんの縁。
寂聴さんの体験と感性を通じて、
知っている人の意外な一面がうかがえ、知らない人への興味が湧きます。
そして何より、寂聴さん自身が一番見えてきます。
現在も連載中です。続刊が楽しみです。
これまで寂聴さんに関しては、法話や講演を聞いたことはありましたが、
小説・エッセイなど文章は読んだことがありませんでし、聞いた話以上の知識
がない読者の言い分で失礼しました。
檀一雄の愛人との生活から別れるまでを書いた「火宅の人」の後に、未亡人となった妻からの視点で沢木耕太郎が出した本です。母としてではなく、常に檀の妻として生きた女性のかたちがみえます。私自身いつか結婚して夫に愛人ができても、嘘つかれるより正直に話して欲しい。檀一雄のように。でも「・・・さんと事をおこしたからね」は嘘よりまし?わからなくなります。
タレントで食を愛する人がテレビや料理本に登場する。でも、料理はつくらず有名な料理店をあちこちまわってグルメと称している人も多い。私に言わせれば、彼らは野球をやったこともなく野球通と称している人に等しく、信用するに足りない。壇一雄のこの本はその対極にある。彼自身が日頃料理をつくることを愛し、また世界中を回って食を楽しんできた。この本では国籍を問わぬさまざまな料理のコツを惜しげもなく紹介している。ヒヤッ汁(ちる)、鶏の白蒸し、博多じめ、ザワーブラーテンなど、この本から学び、私のレパートリーになった料理は多い。あわせて、彼の手になる「美味放浪記」も必読の書である。
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