三崎さんの短編集で、9作品が収められています。
短い作品が多く、「もう少し膨らませたら、もっと面白いのに・・・」と、物足りなさを感じる作品もありましたが、三崎さんの世界観は健在です。
現実と隣り合わせの非現実。
発想は奇抜ですが、単なる空想物語では終わらせず、考えさせられるところもありました。
好みは分かれるかもしれませんが、非現実的な設定を素直に受け入れて読み進めると、そこに隠されたメッセージが見えてくるのかもしれません。
個人的には、表題作と「象さんすべり台のある街」が面白かったです。
ほんとうにありそうな「たぶらかし」業、それは役者の派遣。
このままおもしろい連続ドラマになりそう。
着想がおもしろく、文章もきちんとしている。
著者は二度の最終候補を経て、小説すばる新人賞を受賞した。
あきらめないで書き続けた努力、そしてガッツというか執念が、作品に溢れている。
主人公は冬堂マキ、食えないが知る人ぞ知る役者、
「伝説の女スナイパー、サグラダファミリア、通称赤マムシ三平太」。
5年前、両親の海外移住でパラサイト不可となったマキ。
藁をもつかむ感じでヤバイ会社に就職、そこは1日で退社するも、
同じビルに役者募集の張り紙を見つけ、飛び込んだ。
即採用された会社の業務内容は、役者の派遣。
自殺死をとりつくろう遺体、
新妻の親戚付き合い代行、
セレブな母親代行。
世間をたぶらかそうとする、ひとクセもふたクセもある依頼者たち。
マキは、むちゃぶりされた役を見事に演じることで、
彼らの人生と深く関わることになる。
この作品だと、姫野カオルコと作風が被る気がするが、
凄味のあるパワフルな書き手だと思う。
今後に期待。
数十年に一度、ある日忽然と町から人が消滅してしまう。そこに住んでいる人は、それが自然なことだと思い、そこから逃げ出そうとはしない。そんな世界の常識に対して、それぞれが様々な悲しみを抱えながらも、それぞれの方法で向き合っていく人々を描いている。
1冊のそれほど厚くない単行本の割に、メインとなるキャラクターが多すぎるのではないか?という印象を抱いた。そのために、誰の視点で世界を見たらよいかが分からない。ある人の視点から見れば今の日本と変わらない世界のようにも見えるし、別の人の視点から見るとまったく違う、華僑風の、地球外に移住したような世界にも見える。
そういうよく分からない世界観を受け入れて、気にせず読める人で、しっとりと繰り広げられる物語が好きな方ならば、気に入るかもしれない。
原作も同じタイトルだが、途中まで忠実に原作を再現してあった。予想以上に良い出来栄えであったと思う。
しかしながら、ラストシーンはワンパターンのハッピーエンドになってしまった。主役が江口洋介と原田知世だから、しょうがないといえばしょうがないのだ・・・。
原田知世の雰囲気が絶妙に良かったので、ラストシーンが原作どおりであれば、もっとヒットしたであろうと感じた。監督の映像表現が良かっただけに本当に残念な作品に終わってしまった。
本書について、帯やレビューの中で作者の過去の作品とのつながりを指摘するものがあるが、大して意味のあることではない。
作者の「町」というテーマ・対象への強い意識、また現実世界とは異なる設定や事象をクロスオーバーさせる手法は、作者の多くの作品に通底するものだから、今更言うには及ばない。
本作品が過去の作品と大きく外形的に違う点は2点で、一つは登場人物や場所が繋がらない短編集であること、もう一つは写真とのコラボレーションであること。そして、この相違は、本作品の描く内容・テーマ自体が、過去の作品からスピンオフしていることとつながってくる。
すなわち、過去の作品においては、「町」という空間・時間・生活する者・物を広く抱える存在を大きく取扱いつつ、その中で、そこに暮らす登場人物を描きこんでいくという共通手法があり、そこに現実世界とは異なる設定や事象を置いていくことで、逆に登場人物の心理が読者に深く伝わってきていた。異世界的な事象はあくまで背景や設定であって、それと現実の対比がテーマではなかった。
しかし、本作品では、そうした異世界的な設定や事象そのものが中心に置かれており、多くの登場人物は狂言回し的な存在でしかない。古典的なショートショートを彷彿とさせる「巣箱」や怪異譚的な「四時八分」はその最たるところである。また、「ペア」や「海に沈んだ町」ではその事象が何を意味するのか(何かの比喩なのか?単なる変事象なのか?)も定かでない。そして、これまでの作品で作者が慎重に回避してきた現実世界とのシンクロが「ニュータウン」では大きな踏み出しとなっているようにも感じられる。浅く読むなら、「ニュータウン」は現実世界の政治・社会への露骨な批判でしかないからだ。
こうした三崎ワールドの中心から、スピンオフ的に個々に切り出された各短編は、写真によって現実世界と異世界との境界をまたぐような存在感を付与され、叙事・叙景から強い存在感を示す仕上がりとなっている。
今回の作者の挑戦を私は5つ☆をもって評価したいが、自分の評価内容が的を射ているのか不安ではある。
こうした叙景を現実の「町」を深く鋭く洞察してきた作者が行なったからこそ、「海に沈んだ町」と「団地船」で起きたことがまさに311で現実に起き、「ニュータウン」の後味の悪い結末がどうしても311の起きた町々と被るように感じられる。
それは外形的に似ているという単純なものではないようにも思う。
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