通好みで癖のある監督(多分にアート系)から誰もが知ってる監督まで、色んな監督の実現しなかった映画について詳しく書かれている。そういった作品のシナリオや原案も抄録されていて、作り手のこだわりを強く感じる。 しかし、カラーページで珍しい写真を出来るだけ見せたかったからか、写真の上に細かい字が沢山書いてある。それが大変読みづらい。たとえビジュアル重視でも、もう少し読みやすいレイアウトに出来たと思うと、とても残念だ。
この映画はジョージ・オーウェルの描く「1984」とフィリップ・K・ディックが描く「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」へのオマージュだろう。描き出される情報統制管理社会は、すでに現在を示している。検察が裁判で99.9%勝利するような、政府の言う事が記者クラブを通じて大本営発表となるような、現状に疑義を唱えられぬ日本そのものを描いているようだ。統制し管理し、そうした権力をチェックしなければならないメディアですら権力の側に荷担する。これらの作品の描き出す社会とは、情報化という名のもとに統制された、自由があたかも存在しているように振る舞う不自由の世界である。自分で考えたつもりになってはいるが、自分で考える事が行われず大政翼賛に傾斜した世界である。私もあなたも、実はここに住んでいるわけだ。寒気がするけど。
テリー・ギリアムの驚異的なイマジネーションの世界。未来社会の創造が面白い。テクノロジーよりも、わずらわしさの進化が際立っており、基本的な問題は何も解決されていない。管理社会における徹底管理の元でも誤認逮捕が発生、また管理体制に対する反体制勢力によるテロ活動。人間の自由が存在するのは、タトルに象徴されるように「もぐりの技師」として生きること、体制の隙間にあるのみ。たった一匹の蝿が招くドラマは悲劇的な結末へと向かう。自由と愛を守るための必死な抵抗も虚しく、最後の砦は心の中、精神の自由のみという皮肉な結末。恐ろしくも現実的な未来を創造したテリー・ギリアム、すごいっ!!!
ノース・キャロライナ州ランバートン。大学生のジェフリーは、突然発作に襲われて入院している父を見舞った病院からの帰り道、野原で切り落とされた人間の片耳を見つける。刑事の娘サンディと知り合ったジェフリーは、事件の真相を探るうちに、謎めいたキャバレー歌手のドロシーと出会う。・・・ 気持ちよく晴れた青空、庭に咲く赤いバラ、青々と茂る緑の芝生。のどかで平和的な田舎町の野原に落ちている腐敗しかけた人間の片耳。「んん!?」と思った瞬間から、観ている私もジェフリーと一緒に事件に巻き込まれていました。ジェフリーがひょんなことから垣間見てしまう暴力と犯罪、狂気とセックスに満ちた世界が独特な映像で描かれていて、これが実にお見事。サディスティックな男、フランクを演じるデ二ス・ホッパーのキレぶりや、倒錯した性の歓びにふけるドロシー役のイザベラ・ロッセリーニ、ゲイバーで怪しく歌うオカマのベンなど、イッちゃっている人々がこれまた天晴れです。主題歌の『ブルーベルベット』や『眠りの精はお菓子のピエロ』など、音楽も効果的に使われていて、物語を耽美に盛り上げています。個人的にはデヴィット・リンチの作品は敬遠していましたが、この作品は極上の出来で楽しめました。
1980年代、SFサイバーパンク映画が量産された。 そのほとんどは二度観なくても良いものだったが、本作と「ブレラン」は違った。 内容は全く違うものだが、どこか未来を暗澹とさせる「カオス」を作り出すことで、 この両作品は際立った。
ブラジルは最初観た時からあの「テーマ」が頭から離れず、時々あの陽気な スコアが脳内で流れだす(笑)。 順序は「ブレラン」の方が先だが、それを真似た嫌いは一切ないのに、どこか 暗い未来を描きだす・・・。 古くは「メトロポリス」や「モダンタイムス」も同様のテーマ性を持っていたが、 実際の世界も「レトロ」でこそないが、これらの「情報統制社会」が実現しているのが 恐ろしい。
もともと本作はイギリス映画だ。「モンティパイソン」ばりに大笑い出来るシーンも 多くあるが、あのラストには驚かされたものだった。 これが賛否両論で、アメリカの配給を手掛けた20世紀FOXとユニヴァーサルで 結論が違うバージョンが出来る始末になった。
T・ギリアムは「トラブルメーカー」としても知られるが、O・ウェルズらに比べれば 大人しいものだ。大学出のインテリに乗っ取られたハリウッドのエグゼクティブたちと 意見が合わないだけだろう。 昔のハリウッドもパインウッドも、日本の活動写真だって「博打打ち」の世界だった。
この傑作がHD化されるのは大変喜ばしいことで、VFXの場面に粗い場面はあるものの 概ね1985年の作品としては上出来なレストアだと思う。 ただ、特典映像の新録がないのが残念。SDでのメイキングは30分だが、これは撮影時 に収録されたものである。
星は文句なく5つだが、新しいメイキングがあればもっとよかった。
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