三国志の山場「赤壁の戦い」。しかし、酒見三国志は一味違います。 正史なら周瑜の大活躍!!空気の劉備軍。演技なら孔明の大活躍!!いいとこどりな劉備軍。酒見史なら孔明はツンデレ!!殺人鬼の集団、劉備軍。 孔明が痴力を振り絞り、周瑜と渡り合うのですが、ここが困ったことに、周瑜の評価がかなりまっとうなのに、孔明に対してだけ感情的になってしまう。これはまるで、クレヨンシンちゃんのしんのすけとカザマくんの関係のようで、好きものには堪らない。 しかし、孔明の活躍ばかりで、曹操陣営も、劉備陣営でさて影が薄い。張飛が大殺戮してもぱっとしないのはどうかと…。
雑誌掲載後、単行本化されていなかった中短篇5作を含む8作が収録された文庫オリジナル編集作品。
【収録作品と出典】*が初収録作 ピュタゴラスの旅《「ピュタゴラスの旅」91年講談社刊》 エピクテトス《同上》 *分解《「文學界」97年6月号》 *音神不通《「オール讀物」98年5月号掲載》 *この場所になにが《「オール讀物」98年8月号掲載》 *泥つきのお姫様《「オール讀物」98年10月号掲載》 *ふきつ《「小説すばる」99年3月号掲載》 童貞《「童貞」95年講談社刊》
初収録作のうち、色々な意味で印象に残ったのは「分解」。
この作品は、学者と思しき先生が弟子に講義する形で話が進んでいく。先生の専門は、あらゆるものを分解すること。分解学か?。分解されるのは、銃、人体、人間の意識、そして○○。
講義の方法は実際に分解をするという実技形式なのだが、デビュー作「後宮小説」がそうであったのと同じく、ホラ話があたかも事実であるかのように、もっともらしく語られる酒見賢一らしい作品。人体も分解されるが、オドロオドロシイ描写はなく、学問的?に淡々と分解作業が進んでいくのがかえって怖い。
とにかく70頁のほとんど全てが分解作業の描写に費やされている。特に「意識」を分解していく描写は圧巻。さすが酒見賢一と言いたいのだが、この延々と続く分解の描写がけっこう退屈だった。
最後に分解されようとする○○がオチになっているのだが、たった3頁しかないこのオチが見事。それまでの退屈が吹っ飛んだ。筒井康隆の実験的小説「残像に口紅を」を思い出した。
延々と続く分解の描写をもっとコンパクトにするともっと読みやすくもっといい作品になったように感じた。もしかしたら肩に力が入りすぎていたのかもしれない。
この作品に印象に残る文章があった。ちょっと長いが引用してみる。 〈小説の機能は読む人の人身に働きかけ、ある種の意識異常を引き起こすことにある。意識異常によって出現した世界が、そこが豊かな世界であれ、地獄的な世界であれ、薄汚い世界であれ、薄汚さのない世界であれ、読者を遠い場所へ連れて行く。小説を使って人間を書こうなどという試みは無意味なことだ。小説は不完全な固定か、限りなく完全に近い固定か、その間を揺れ動く意識に過ぎぬ。人間を書くことなど目的ですらない。小説は人を遠くに連れて行くためにあるものだ。〉
これは登場人物の一人が語ったものだが、酒見賢一が自身の小説に対する考えを書いた文章であるのは明らかだ。もしかしたら、このことが言いたいが為にこの作品を書いたのではと思ったりもした。
さらにこの文章は、彼の書く小説の特長が見事に表現された、現在まで書かれ続けた酒見作品全体に対するある種の解説文にもなっている。この文章を読めただけでもこの作品集を手にとってよかったと思う。
『腹上死であった』という有名?な書き出しで始まる面白すぎるホラ話。中国史に疎い私は、はじめてこの小説を読んだとき、ある程度は事実に基づいた作品なのだと思ってしまった。
大真面目かつ哲学的に語られる下ネタ、主人公の少女銀河や彼女を取り囲む登場人物の魅力やおかしさ、そして、自分で作ったホラ話を作品の中で解説する作者、それらが、不要な句点が少なく格調高い(あるいは漢文的な?)が、どこかとぼけた文体で描かれている。落語の「下げ」みたいなラストもいい。そして、著者の文庫本の楽しみは下手なエッセイより面白いあとがきである。
中国の歴史というか思想を下敷きにしながら、ここまで面白い小説を“創作”できる作家はそういないのではないか。そして、その面白さは、前述の特長を持つ著者の文体によって倍増するのである。
著者の代表作といえる「陋巷に在り」も読んだら止まらないが、全13巻と長いので、最初に手に取る作品としては、これ以降の作品にも見られる彼の魅力が詰まっている、このデビュー作「後宮小説」が良いと思う。
もう何年前になるのか…たしか小学生の時、このアニメを録画して何度も何度も見たのを思い出します。
あれから20年近く(?)経って、ふいにこのアニメを思い出し、DVDが出ていることを知り即購入しました。
とにかく主人公の銀河がとても魅力的でかわいい。田舎育ちの無邪気な“泥付き大根”が後宮という場所で正妃となり、少しずつ大人に成長していきます。
鮮烈に印象に残っているのは馬小屋のシーン。銀河と双槐樹が初めて結ばれ、同時に最期の別れとなってしまった場面。なんとも言い難い喪失感。今でもこのシーンは涙してしまいます。
アニメでは銀河のその後をナレーションで少し語られる程度ですが、銀河ならこう生きたんじゃないか…と、想像をしてみたりするのも楽しい。
大人も子供も楽しめる作品だと思います。 大切にしたい作品です。
やっと単行本化された酒見賢一先生の最新刊。 これまで存在しなかった諸葛亮像を作り上げた渾身の1作だろう。 虚像に迫る、というオビがまたうまい所をついている。 有名歴史小説家が挑戦してきた三國志ではあるが、 酒見賢一ほどスタンスをことにする作家もいないだろう。 歴史小説は概ね史料から実を掴もうとする。 この小説は、はなから実に迫ろうという気はないのだ。 素直な三国志ファンは言うだろう「こんなの孔明じゃない」と。 しかし、この孔明も多次元宇宙の中では確かに存在している孔明なのだ。 いままでの三国志に飽きた方にお勧め。
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