蝦夷地別件 上 (小学館文庫)
おもろい! の一言につきます。
船戸与一は「猛き箱舟」が最高だと思っていたが、それ以上におもしろい。
(上)のプロローグ、そして本文を読んだ後、 エピローグ(下巻に掲載)、イイ。
物語の最後は作者のいつもどおりの終わり方で、それはいまひとつだが、
でもおもしろい。
山猫の夏 【新装版】 (講談社文庫)
もちろん最初から全部読まなければ意味は無いが、20年前に初めて読んでから今に至るまで、このラストシーンを越えた小説を私は知らない。
読み返すまでも無い。
思い出すだけで目頭が熱くなる。
こんな小説を書いてしまったら、普通の小説家はもう一生使い物にならなくなるのではないか。
それでも精力的に作品を書き続ける船戸与一、凄い男である。
猛き箱舟(上) (集英社文庫)
ミステリーの中で、特に冒険小説を好きな人は絶対に読み逃してはならない一冊と思う。
海外での日本企業の活動を阻害するすべての物を排除する「守護神」・「灰色熊(グリスリー)」こと隠岐浩蔵。彼にあこがれる香坂正次は、かれの配下に加わることに成功し、アフリカの砂漠において、日本企業の隣の採掘権を確保するべく奔走する。しかしそこで思いがけない裏切りが起こる。
1986年3月、隻腕の殺し屋を追う警視庁特殊処理班のシーンから始まり、舞台は1984年の日本にもどる。そして戦いの地サハラへ。わずか2年の間に凝集された、壮絶な復讐の物語である。「坊や」とよばれた青年が、戦いをくぐり抜け、様々な死を経験することで「死人のような目をした男」に成長(変貌)していく様は、圧巻である。
言わずとしれた、日本の冒険小説の第一人者である作者だが、本作品は、その作者を代表する一作だと思う。
本作品は1987年の文春のミステリーベスト10で堂々第一位を獲得した。
ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)
ミャンマーを江戸幕府に例え、柳生一族を組み合わせて、さらにそれがうまい具合にはまって納得させられてしまうから凄い!
中々複雑なミャンマーの現代史を江戸幕府に置き換えて説明されると不思議なくらい理解できてしまうんで、改めて筆者の発想力と筆力に感心してしまう。
道中の描写も小気味のいいテンポで進み、上質の小説を読んでいるかのように一気に読んでしまう。
万人にお勧めできる読んで損はしない本です。
蝦夷地別件 中 (小学館文庫)
この小説の中では、蝦夷地にまだ階級社会は生まれてなかったということになっているらしい。指導者は常に評定で決まり、戦争を起こすかどうかも長人たちの評定で決まっていく。住居は竪穴式らしく思えるが、その描写は無い。既に明らかになっていることのみを誠実に再現しようとする作者の態度が伺える。
中巻まで読み終えて、やはりこの「乱」はあまりにも無謀であった、といわざるをえない。しかしアイヌは自らの誇りにかけて立ち上がる。民族を守る闘いに(現代でも)我々は口をはさめない。さらに言えば過去に民族をじゅうりんした我々の祖先を我々は恥じなければならない。
物語は封建社会の支配者である幕府の思惑と、革命が進みつつある西欧の思惑を背景にもちながら進んでいく。世界的な視点でこの「乱」を船戸は描いている。それは正しい。