STORY BOX JAPAN 青森へ/ストーリー・ボックス別冊 全読み切り (小学館文庫)
文庫判の月刊の文芸誌。今回は特別編集板ということで、いつもと変わって、「STORY BOX JAPAN 青森へ」というタイトルで、青森をテーマにして、いろいろな作家が競作している。ちょうど新青森まで東北新幹線が延びるからなんだろうけど。
その作家群は、井上荒野、島本理生、西加奈子、嶽本野ばら、森見登美彦、相場英雄、西村京太郎といったところ。
なんと、この特集のために、各作家は青森取材を行い、全作品を書き下ろしたとのこと。力が入ってるなぁ。
実は、この文芸誌は毎月の連載をものすごく楽しみにしているので、どうして今月は、こんな特集組むんだろうってちょっと不満だったけど、読んでみるとなかなかの力作ぞろいで、とても良い試みだった。
自分も好きな森見登美彦氏の「夜会」は、連載されていた「夜行」同様、結構怖い話に仕上がってるし、嶽本野ばら氏の「死霊婚」も味のある怖い話だった。
また、初めて読んだ夏川草介氏の「寄り道」も太宰治や柳田国男なんかをうまく題材にして読ませる話だった。
でも、どうして「青森」を題材にすると、恐山とイタコとか太宰とかになるんだろうね。
クローバー (角川文庫)
島本理生3冊目。
著者初のエンタメ小説だとか。
これまでは頭で考え出した架空のものを、こねくり回した表現で書こうとしてるって感じが拭えなかったから、心も動かされなかったのだが、これは実人生で感じたことを素直に登場人物に語らせてる感じがして、好感が持てる。
エンタメ小説として特別面白い訳ではないが、この著者の観察力には確かに非凡なものがあるので、それがうまくセリフになったところは笑える。
「結婚もしていないうちから心底リラックスできたら、それはむしろ恋愛じゃないと思う」
「都合の悪い部分は知られたくないのに、弱さを出せないのは相手が自分を理解してくれていないからだと感じたことは?」
…これらの文章を面白いと感じたなら、読んでみてもいいかと思う。
コイノカオリ (角川文庫)
それぞれの作家さんの個性が生きた作品揃いでした。
切ないけれども、人肌の温かさを感じるような作品たちばかり。
そして伝わってくる「香り」。
1作読み終えて次へ…というより1作読んだらしばらくその読後感と「香り」に浸りたくなるような気持ちになりました。
みなさんが評価されているように宮下奈都さんと、井上荒野さんの作品が特によかったです。
恋のトビラ 好き、やっぱり好き。 (集英社文庫)
時々、無性にスウィーツが食べたくなる時があるように、無性に甘い恋愛小説が読みたくなる時があります。
あまり重くなく、ちょっと心が痺れるぐらいのものを求めて、本書を読みました。
若い時の最初の恋が共通のテーマです。
女の子が初めての恋で変わる瞬間。
自分の中から別の自分が出て来て、新しい世界が見えて来る瞬間。
女の子の恋によって歴史や世界が変わることはないかもしれませんが、
その子にとっての世界は間違いなく変わることが、それぞれのストーリーに描かれています。
ほろ苦い恋や微笑ましい恋。
自分の10代のことも思い出しながら、読みました。
ナラタージュ (角川文庫)
最初と最後は良いものの、途中ちょっと間延びしたところがあると思った。
なんというか、ドラマ「高校教師」をもっと引き伸ばしたような雰囲気。
文章はきれいだが、それだけに所々あらが目立つというか、たどたどしい感じがした。
それが、この年頃の雰囲気をよく表していると思えば思えなくはないが、個人的にはあまりピンとこなかった。
真ん中あたりまで読んだ時、長すぎてもうやめようかと本気で思った。
しかし後半がぐっと面白くなる。話の展開や主人公達の気持ちにひきこまれてやめられない。
途中はほとんど感情移入することなく読んでいたが、ラストに近づくにつれて、自分の過去と重ね合わせてしまった。
最後の数ページは本当にうまいと思った。
途中で投げ出さなくてよかった。