いやぁ〜、面白かったです。中でも、細田よしひこさんの怪演には脱帽。「Q10」の時もそこそこ面白い役でしたが、今回はイッちゃってましたねぇ〜。三浦貴大さんも「イメージチェンジか?」って感じ。感情変化の表情表現は上手かったなぁ。波岡一喜さん、最近落ち着いた青年役を多くこなしてますが、やっぱりヤンキー役はいいです。このタイプの映画にしては安定感のある(=そこそこの年齢)の役者さんが多く、映画としてのまとまりがあったかな。原作未見なので、映画単体としての感想でした。
知らずがむしゃらに生きてきて、企業人としての栄達を半ば手にしかけている男、筒井肇。しかし、彼がそれと引き換えにした無理のせいで家族の絆は失われかけている。さらにあろうことか古い友人の挫折の引き金をを自分が引かなければならない役回りを引き受けてしまう。齢49、50歳を目前にしてばたばたと身の回りに起こる事件、それをきっかけに微妙なバランスを保っていた企業人としての自負が崩れ始める。彼の潔い決断は母が暮らす故郷で子供の頃の夢実現という形で花開く。ローカル電鉄会社の運転手に転身した肇。もうひとつの人生を生き始めた彼が経験するヒューマニズム溢れる人生は冷徹なロジックで動く企業の歯車としての人生では経験できない体験、これが観客の心の琴線をもつまはじく。主人公、筒井肇を演じた中井貴一がいい。彼の表情を通して我々に届く肇の心理は言葉以上の重みを持って語りかける。子供の頃の自分の夢、適う人はほんの一部だろう。しかし、人生の軸足を半歩でも一歩でも昔見た夢の側にずらして生きるのも悪くない。かって大学生活がモラトリアムだと言われたことがある。しかし、今では社会人として生きているようで、その実モラトリアム社会に生きているだけの人間がいかに多いことだろう。そんな現代の閉塞感を打ち破った姿が我々の眼に眩しく、かつ爽快な印象を与える作品だ。
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