「モーダルな事象」が付かない方の「......スタイリッシュな生活(以下千葉編)」を先に読んでいたので、随分と異なった印象を受けた。「クワコー」の前歴が分かって面白いという面もあったが、中途半端な読後感は否めない。
大伽藍を構築しておいて、最終的には卑近な結末へと導く型の(アンチ)ミステリだが、こうした型のミステリにおける成功例を見た試しはない。本作もその例に漏れない。どうも作者が描きたかったのは現状の文学界や学会に対する不満らしく、作中に挿入される(本筋とはほぼ無関係の)断片も読者のためと言うよりは作者自身のためとの印象が強い。
無条件に笑える千葉編の方が、むしろ本格味においても上出来で、本作は作者の自己満足に終始している感がある。「ダサイお侍さんが来たよ」「左様(斜陽)ですか」の駄洒落が一番印象に残る様ではお寒い限りである。
美しい言葉選びが恍惚とさせてくれます。
筆者のシューマンへの思いの深さを感じさせてくれるほど、一曲一曲の解説が描写細かく描かれています。
読んでいるとシューマンの楽曲を聞きたくなります。
私はクラシックを聞きはしますが、楽譜は読めないので楽譜を読める事が出来る方が読めば、
もっと面白さを感じられそうです。
個人的に一番好きな場面は永嶺修一の幻想曲の演奏シーンの一連。
想像すると溜息が出るほどの美しい情景が思い描かれて、うっとりさせられました。
肝心のミステリーですが、前半はなかなか進まないので、生粋のミステリファンには物足りなさを感じさせるかもしれません。
しかし結末の最後は不要だと思います。あの箇所が無ければもっとミステリアスで良い余韻を残せたのではないかと思ったのですが…。
そこは惜しいと感じてしまいました。
美しいミステリを読みたい方にはオススメです。
今、読み終えて、ただ、ひたすらに良かった...。 現在に生きる「ニホンジン」として向けられたこの鋭い眼差しをこんなにも一級のエンターテイメント性をもって一気に読ませる本作品は近年の文学界において傑出した完成度だとおもいます。 作品の性格上ネタバレは厳禁でしょうから、多くを語りません。 ああ、おもしろかった。
おもしろい展開だった。特に最終章の最後で話が完結している。書き下ろしでないにも関わらず結末に作者独特の凝らしがある。
千葉県某市にある「たらちね国際大学」を舞台にして、そこに赴任してきた桑潟幸一准教授を主人公にしたユーモアミステリーである。
桑潟准教授は駄目人間である。ここ十年は何の勉強もしていない。しかしこれは従前の勤務地である大阪の土地柄のせいではないかと彼は考える。そうして全責任を大阪に転嫁した上で、この赴任を機に生活を刷新して知的な生活を送ろうと決意するところから物語は始まる。
彼はすぐに泣き、いじけ、開き直り、そして諦める。常に自分の損得にのみ行動基準を求め、間違っても他者のために動くようなことはしない。駄目人間もここまで突き抜けていればむしろ見ていて清々しく、嫌味っぽさも感じない。小者界の大物であるといっても過言ではない。
しかしながら自身が顧問を務める文芸部の部員からは、決して尊敬されることはないながらも、それなりに慕われてはいるようである。この文芸部の面々もまたユニークで、ギャルに始まり、コスプレイヤー、ホームレス、元レスラーとそのジャンルは多岐にわたる。
本書は、騒動に巻き込まれた主人公が、その謎を文芸部とともに解き明かしていくという形式のショートストーリー三編から成っている。小気味よい文体で書かれており、また内容も全編を通してゆるい感じで仕上げてあるので気楽に読める良書である。
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