成り上がり
武士の子として生まれながら貧しい暮らしをしていた安田善次郎が、家族や多くの仲間達との出会いで成長し、やがて日本一の金持ちへと成り上がっていくストーリー。著者は「成り上がり」という言葉を軽蔑ではなく、敬意を込めて使っています。それは若者は出世したい、偉くなりたいというエネルギーがもっとあっていいと指摘しているからです。
安田善次郎の生き方はとても魅力的で、特に仲間達との厚い友情には何度も涙腺が緩んでしまいました。
「誠実」「真面目」「平凡見えることを非凡にまっすぐに続けること」「実務の才は実直な人に宿る」などなど。安田善次郎の生き方には現代のサラリーマンにとっても教訓となることが沢山あるように感じます。真面目にひたむきに仕事をし、自分も夢を叶えたい気持ちになれる一冊です。何より安田善次郎の生き方にとても感動しました。
著者には『我、弁明せず。』という池田成彬を取り上げた上質の小説もありますが、こちらも負けず劣らず面白いです。若いサラリーマンに特にオススメしたいです。
奇跡のモノづくり
タイトルからすると伝統工芸のように、長年に渡って受け継がれている技術や工芸のことを想像してしまいがちですが、本書では普段の生活でも見聞き手にする身近なものを取り上げられています。
売上至上主義に傾いてしまいがちな現代にあって、妥協を許さず誇りをもって必死に「いいもの」を作り上げる人たちの静かだけど確かな力強さを感じることができます。
著者の江上さんはかつて銀行マンとして企業の再建に携わった経験をお持ちなだけに、作り手が目指すもの、そこで働く人たちの思い、そうしたものにとても敏感に反応されていて、とてもいい話を引き出しています。
「今こそ取り上げなければ」というポリシーも本の全編を通して伝わってきて、日本のモノづくりはやはり凄いなと改めて感じさせてくれます。
きっと本書を読んだら日常生活に触れるひとつひとつの製品にまで思いをめぐらしてしまうことでしょう。
戦いに終わりなし―最新アジアビジネス熱風録 (文春文庫)
新聞、雑誌、テレビなどで毎日のように報道されるアジアでのビジネスの重要性。
これから否が応でも仕事に関わってくるアジアビジネスを知るため、色々と探して
いた私には、最適な書籍でした。
紹介された七カ国(インド、シンガポール、ベトナム、タイ、韓国、インドネシア、
中国)でのビジネス、そして各国と日本との関わりがわかりやすくまとまっています。
本書はリーマンショック前に書かれたものですが、古さは感じなく、各国について
十分に理解でき、役立つものでした。
最新の取材で更新されるのであれば、是非そちらも読んでみたいと思う。
リベンジ・ホテル (講談社文庫)
江上氏にとっては初めて?のホテルを舞台とした小説です。著者は銀行出身とのことで銀行小説は詳細でリアリティ溢れ、また江上氏独特の厳しい意見が魅力であるが、本書は就職難で、地方都市の落ちぶれたシティホテルに入社した主人公がオーナーの孫娘である女性支配人のために、新入社員にもかかわらず周りを巻き込みながら銀行とファンドからの厳しい条件に苦しみながらホテルを再生させていくというストーリーである。設定が固い銀行はでなくホテルのためか、今までのよりはソフトな印象。これも舞台がホテルというやわらい土台だからかもしれない。
銀行出身の江上氏は銀行小説は得意分野であるが、初めてのホテル小説のわりには内容はよく取材をされており、ホテル経験者の私が読んでも正確でリアルに書かれている。また、内容も主人公は新入社員でありながらのホテル再生の中心となっており、ときおりありえないというような行動はあるものの、ホテル出身の小説家 森村誠一氏の初期のホテル小説と比較しても見劣りはしない。
『仕事が人生である』これは氏の小説の主人公はすべて一生懸命に仕事に取り組んでいる姿が書かれており、この主人公も一貫してその姿勢である。これは氏の生き方にも通じていると見られる。主人公の仕事に取り組む姿を読み、新入社員の頃はこうだったよな、こんな気持があったよなと懐かしく、そして自分の仕事への取り組み方を見つめ直そうと思った。
元気のでる小説である。こんな気持があれば日本も元気になるのではないかと感じた。
仕事が人生 それがすべてではないがそのとおりである。良い言葉である。退職した時にいい人生だったと思いたい。そして次の人生を考えたいと思った。
最後は江上氏ならではのシティホテル再生の理想の姿を提示しており、企業というのは存在するだけではなく、必要とされなければならないと感じた。
480ページを一気に読める満足の一冊である。