百物語―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)
教師という経歴を生かした学校での怖い話や、趣味の釣り&キャンプ場での怪など満載。すごく新しいことはないけど、注目すべきは次の2点。
1.都市伝説的「友達の友達がうんぬん」といった伝聞を退け、全て著者および友人の実体験を載せていること。著者まえがきにもあるとおり、これが成功して異様な臨場感ある語り口となっている。
2.「百物語」をタイトルに冠した類書の多くと異なり、本当に100話載せていること。類書は百物語の能書き、「百話語り終えると怪が起こる」ということで縁起をかつぐのか読者への配慮か、はたまたネタの節約か(これが一番ありそうだが)40~60話、または99話(呪いとかでは回数が99で満願なのに、大丈夫なのかなあ?)で済ませているのが普通なのに、本作はきちんと100話載っているのだ!ガッツがあるなあ。著者の言にもあるとおり、厳密に数えれば100話越えてしまうほどいろいろな話が載っているのであった。
巻末には、霊感編集者&著者と大迫純一の祟りつき対談集が収録されていて、そっちもコワ~。お札もちゃんと付いてるよ。
義経になった男(四)奥州合戦 (ハルキ文庫 ひ 7-6 時代小説文庫)
全四巻に及ぶ歴史大長編もこれで終わる。前巻で義経が死に、そのあとを受け継いだ彼の影武者、沙棗がどのように生きていくか、そして奥州藤原氏がどのように滅びていくか、読み応えのある第4巻だった。
今巻の主人公は、沙棗というよりは、奥州のため、民のために自ら滅びていこうとする奥州藤原氏の面々。もちろん、これが史実だとは思ってはいないけれど、中央に抗い、生きていこうとする彼らの生き様、死に様には心を打たれた。
とても面白い大長編小説だったけど、読み終えてしまうのが残念だった。まだまだこの物語を続けて欲しかった気がする。例えば、北海道へ渡った彼らのその後、そして義経の影武者、沙棗のその後、などなど、まだ、読ませる題材はあったと思う。
でも、ここで物語を終えることが良かったのかもしれない。彼らのその後については、読者の想像に委ねることが、かえってこの物語を豊かなものにし、余韻を楽しめるようにしている気もする。
怪談倶楽部 幽魂 (恐怖文庫)
全28話です。怪談倶楽部シリーズの3作目です。
今年の3月末にこのシリーズの2冊目が出たばかりなのにまさか1年のうちに2冊も出るとは思ってなかったので驚きました。嬉しい限りです。
今回の『怪談倶楽部』はオチが含みを持っている話が目立っていた気がします。何が何だか分からぬまま話を結ぶものもあります。
それと、今回も収録されている〈高楼館〉。おそらく今後も収録されるであろう常連作になりそうですね。ひとつの場所からこれだけ多くの話が生まれるというのも凄い話です。
個人的にオススメは
血刀
仮面の履歴
託された物
読んだんだけどさぁ
裁縫箱の妖精
座敷童 三題
最後の切符
ニキビ
盗掘
落ちてきたモノ
です。
気になる話ばかりではありますが、中でも〈仮面の履歴〉〈読んだんだけどさぁ〉の後日談が気になりすぎる・・・。あとがきで少し触れてはありましたが、それでも次の巻があるのなら続きの収録を期待してます。
義経になった男(三)義経北行 (ハルキ文庫 ひ 7-5 時代小説文庫)
義経の影武者となった笑氏の青年、沙棗を主人公にした歴史長編モノの第三巻。頼朝に疎んじられ、追われる身となった義経は北へ、奥州へと逃げるのだが、相変わらず正気を失った状態。そんな中で頼朝は...
物語の大転換を迎えるこの第三巻。いよいよ義経と彼をかくまう奥州討伐に乗り出す頼朝。そんな中で、正気を取り戻した義経は、自分がしたことの重大さに気づき、腹を切る。義経を失った、彼の影武者である沙棗は、義経として生きることを決意し、奥州藤原氏の面々は、奥州の民を守るため、滅んでいくことを選択するのだった...
物語は、義経の悲劇から、さらには奥州の存亡の危機へと展開する。奥州制覇の欲望にまみれながらも、義経の影に怯える頼朝とこの世の浄土ともいうべき奥州を、そしてそこに住む民の平穏な生活を守るために、知略を尽くして、いさぎよく滅びようとする奥州藤原氏の対比が見事。彼らの生き様、死に様がいきいきと描写されている。
義経になった男(一)三人の義経 (ハルキ文庫 ひ 7-3 時代小説文庫)
推理小説と歴史もの(つまり登場人物の多い話)が昔から苦手です。
しかしこれは読めた。作品のリズムに乗りやすく、著者のイマジネーションが奔放な「線」となって
史実という名の「点」を自在につないでいく表現力の豊かさに4巻一気!
特に壇ノ浦から先、3〜4巻のオリジナリティーと話のスケールの広がりはもう圧倒的です。
義経になった男、沙棗(さそう)。平家と源氏、そして平和のためにあえて滅びの道を演じ切った
奥州藤原氏。その戦乱の世に源義経の遺志を継いだ一人の男の生き様が、これ以上ないほど鮮やかに、
はかなくラストシーンで結実します。すべてを読み終えたあと、人間の存在とは何なのだろうと
深く思わずにはいられませんでした。また、作者の東北愛も強く感じる一冊です。
しかし角川春樹氏の帯推薦文(4巻)って初めて見ました。社長直々ってスゴイなこれ(笑)。
次回作も楽しみです。