無限の住人(コミックス・イメー
「無限の住人」という時代劇マンガのイメージアルバムらしいですが、私はそのマンガのことは全く知りません。それでも全く問題なく、人間椅子の普通のアルバムとして聞ける作品。イメージアルバムであってサントラとかではないので全曲歌詞もあります。むしろ、題材が時代劇マンガという縛りのおかげで普段のアルバム以上に和で統一された世界観、歌もいつも以上に日本的で演歌・民謡テイストが強い。
「晒し首」は処刑され台の上に並べられた生首の目線から描かれた詩。怨念に満ちていた晒し首、鼻が溶け目玉が落下し、鼻の穴や目の穴に蜘蛛やコオロギが住み着いたり、自分の頭の上に登ったカマキリと月を眺めたりするうちに、いつの間にか平穏な心になり、土に返る頃にはある種の無我の境地に到ったかのような感覚。こんなすごい詩と曲を作れるのは人間椅子くらいだろう。「無限の住人」は前半の日本的な郷愁と開放感あるメロディーが素晴らしい。後半は三味線風ハードロックと浪曲・謡曲風のあまりに日本的な歌メロという強烈な組み合わせがカッコよすぎ!「地獄」はストレートでノリが良い。最後の演奏の盛り上がり方が非常にドラマチック、特にギターソロにしびれる!「蛮カラ一代記」は酔っ払ったオッサンが歌ってそうな雰囲気。「莫迦酔狂ひ」は酒の歌。中間部の展開がスリリング。「もっこの子守唄」は大正琴が響き、昔懐かしくて寂しげなメロディー。日本の歌って良いなあ…としみじみ思う。何となく必殺仕事人のエンディングってイメージ。「刀と鞘」は演歌くさい歌が良い。「辻斬り小唄無宿編」は人間椅子らしい津軽三味線ギターが大活躍。ユーモラスでやるせないメロディーが心に染みる。「宇宙遊泳」は壮大、遥か宇宙に思いをはせる。「黒猫」は中間部にテンポアップした展開をはさむタイプの大作。日本的で邪悪な詩世界。盛大で熱いギターソロで曲をしめくくるのもカッコイイ。名曲!
無限の住人
最初劇画のイメージアルバムと言うことで少々控え気味に感じましたが、なかなか味わい深い
内容だと思うようになりました。 まず和のテイストが非常に色濃い
「蛮カラ一代記」や「辻斬り小唄無宿編」のような”大江戸”感じさせる従来にはないような曲が
あるのが特長です。 和嶋のじょんがらギターソロもふんだんに聴ける曲が多く、詩の内容でも
注目すべき点が多いように感じます。 和嶋の書く詩が良いのはもちろんのこと 鈴木が書く曲も
すばらしい!!
「晒し首」は 生ある物、やがて朽ち果て土に帰るという深〜い内容。
「刀と鞘」 刀と鞘は対をなしてないと役に立たない これは鈴木と和嶋の堅い結束力を表して
いるようにも感じます。
アルバム後半二曲はうねりのある従来の重厚感漂う作品 総じて捨て曲が一曲もなく、聴くほどに
味わいのある作品になっています。 個人的太鼓判!!
ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)
「ブラッドハーレー」でエラい目にあい、「シスタージェネレーター」でやっぱり好きだなあと思い、
今作「ハルシオン・ランチ」でこの「好き」の正体はなんだろうと考えた。
結論がでたので、やっとレビューが書けます。
この作者は、現代のカストリ文化の旗手であるのです。
エロでグロで安直で興味本位、猟奇的事件に各種フェチ、これをカストリと言わずしてなんと言おう。
高尚に考える必要なし、正統派カストリが大好きだあ!という方にのみ読んでいただきたい。
具体的には、団鬼六や沼正三に拒絶反応が出ず、
鴨川つばめや江口寿史がOKな人ならば、きっと楽しんでいただける作風です。
私は大好きだ。大きな声で言うのははばかられるものなんだけれど。
ハルシオン・ランチ(2) <完> (アフタヌーンKC)
沙村広明のサブカル満載の異次元SF「ハルシオン・ランチ」第二巻、完結編です。
外宇宙の果てから地球に送られてきた、資源回収のための生体デバイスの少女達。彼女たちは、彼女達を認識した人間が保護欲をかき立てられる存在としての外見と、圧倒的な食欲をもって地球侵攻のために日夜作戦行動を開始した。。。はずなんですが、そんな大風呂敷なSFとは思えない展開に、ダメンズとシスコン、ブラコン、ファザコンに人生の落伍者達が入り乱れての愛憎劇とメタコメディ、そしてこれでもかと投入されるサブカルチャーネタの嵐という豪華なんだか闇鍋的なのかわからない漫画になっています。
ということで、正直、読み手によっては評価がてんでバラバラに別れそうなこの本ですが、個人的にはこの本大好きです。ある意味、センス・オブ・ワンダーに満ちあふれています。この漫画の混沌具合、壊れっぷり、尖り方、サブカルチャー万歳でヒッピーから薬物から特殊性癖までカバーする幅の広さに、「無限の住人」の作者としての本領発揮の圧倒的な画力。これはもう脱帽して、爆笑して、絵のセンスにため息をつくしかありません。
またギャグのキレの鋭さにも注目です。その真骨頂はこの作品の中盤に出てくる、顔写真とキャプションだけのページでしょうか。前後のつながりや会話の中のギャグが出来るのは勿論、ああいうのも出来るんだなぁと感心しきりで笑わせていただきました。
上下間二冊くらいが適当な長さといえば長さなんですが、是非とも沙村さんには今後もこういうギャグ的なものと、「無限の住人」や「ブラッド・ハーレーの馬車」のようなシリアス重視の物語の二本立てで頑張って欲しいです。