ULTRA SONIC
今から約9年前、生まれて初めて 巡り会えてよかったと実感できたCD。
この一枚と出会わなければ、その頃の私はきっと洋楽へと音を追い求め、こんなにマイナーな邦楽の世界にどっぷりとはまらなかったと思う。
ある意味 人生を変えさせたれた心憎い一枚だ。
たった6曲のミニアルバムである。短い。
だが、最高のテクノポップを届けてくれる素晴らしい作品である。
始めは『TRUTH』。
のっけから、そのありえないほど綺麗すぎるメロディラインに心奪われる。
この冬の星空に浮かんでいるような透明感はなんなのだろう。
彼らの曲には常に宇宙を感じてしまう。
次の『Day After Tomorrow』は、今でも時々無性に聞きたくなる。
苺畑に…からのフレーズに甘酸っぱい過去を思い出し、胸がきゅぅと締め付けられる想いが込み上げる。
初めはずっとSingle曲だと勘違いしていたぐらい完成度が高い。(当初はラジオでわずかに耳に挟んだ『BETTER DAYS』をこの曲だとずっと勘違いしていた…)
『秋の気配』は小田和正の名曲のカバー。彼らの持つ透明感が悲しみに色を添える快作である。
最後は『SUPER SONIC LEVEL』
メロディとボイスが巧みに調和し、時に交錯し、一枚の風景画が編み上げられてゆく。
どこか懐かしくて、幻が見える街を歩く姿は、まるで自分を外から見ているもう一人の自分がいるようで…無性に寂しくなってくる。
この一曲だけでも、このCDは買いだと思う。
夜に空でも見上げ、ゆったりとコーヒーでも飲みながら、音に心を委ねるのに最高の一枚。
癒しあるサウンドを求める方に、ぜひ手にとってもらいたい。
追悼者
叙述トリックの典型的作品だが、展開の
強引さと、終盤のたたみかけ方に疑問。
幕間の存在、誰に対しての発言かをあいまいに
したまま進む展開はありなのだが、ミステリー
愛好家が読んでも、こんがらがる。
犯人の動機にも既読感があり、ムリヤリどんでん返し
っぽく作ったのに、最後は伏線回収も中途半端だし、
事実関係も揶揄するだけで、不明瞭。
何だか、長編を苦労して整理しながら読み込んだのに、
肩すかしをくらったよう。
実際に起こった事件をモチーフに、ありきたりじゃない
事実をフィクションで書きあげようとした狙いは
わかるのだが、そのあたりがしっくりと来なくてがっかりした。
それにしても、○○の入れ替わりはあまりにも無理が
あるでしょう・・・。
告白形式では、やはり湊氏の方が、説得力や読者への
挑戦状的意味合い、結末の鮮やかさから、優れていると感じた次第。
七つの棺―密室殺人が多すぎる (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
折原氏の作風は大きくは次の3つに別れる。
(1) 表芸とも言える叙述トリックもの
(2) 古典のパロディもの
(3) 「沈黙の教室」に代表されるサスペンスもの
勿論、この組み合わせもある。
本作は「倒錯のロンド」が乱歩賞を逃した後、結果として初めて世に出る事になった実質的なデビュー作で、初題は「5つの棺」。出版にあたって2つの作品を追加したのだ。題名から分かる通りカーの「3つの棺」のパロディなのだが、そこは折原氏の事、パロディに見せて実はガチガチの本格なのだ。粒揃いの作品が楽しめる。更に恐るべし、密室トリックに叙述トリック風味を加えるという氏らしい試みも行なっている。
探偵役の黒星警部は、C.デクスターのモース警部を意識したものか、平凡な事件を独自の解釈で難解な事件に変容させてしまうという密室フェチの変人で、大いに笑わせてくれる。なお、事件の舞台になっている白岡市は作者の出身地である由。氏のその後の活躍を予想させる傑作短編集。
倒錯の死角 (講談社文庫)
翻訳家の大沢は、屋根裏部屋から向かいのアパートの201号室を覗く趣味があった。
ある日、そこの住人の女が何者かに殺され、死体となっているのを目撃した大沢は、
ショックのあまり酒に逃げ、ついにはアルコール中毒になって入院する羽目に陥る。
彼の退院後、201号室に新しい入居者がやって来た。その女の挑発的な行動に
始終心をかき乱された大沢は、再び酒に逃げ、次第に精神の均衡を崩していく。
さらに、大沢に恨みを抱くコソ泥の曽根が、ひょんなことから201号室に
忍び込み、女の日記を盗み読んでしまう。そのことが思わぬ事態を生み……。
大沢の一人称の語り、201号室の女の日記、曽根を視点人物とした三人称の
叙述、という三つのパートが錯綜しながら展開されていく構成が採られた本作。
トリックのポイントとなるのは、「日記」というテキストの性質とその扱いです。
それにしても、主要人物のほぼ全員がろくでなしか性格破綻者という本作は、
たしかに切羽詰った狂気が描かれてはいるものの、一歩引いて眺めてみると、
コントにしか見えません。そういった意味では、大いに笑わせてもらいました。