ギャグのセンスが有る漫画家さんには恐怖物を上手く描く素養のある方が多く、奇才明智抄とホラー物の相性が実に良い事を示した作品です。
河童=猿猴(エンコウ)「親に殺された子供がなる水妖」を狂言回しとした連作短編が6作収録されています。
過去作者が多用したシュールな設定から、今回は猿猴と言う民話的な物に代わった事により、逆に作り話を読む安心感が薄れ、隠匿された児童虐待の持つ恐ろしさを際立たせる為の技法に見えた程、心胆寒からしめる作品が有りました(第二話、四、五話)。
特に二話に出てくる女性サヤカの描写が余りにも凄まじい為に、良くある落ちが逆に救済感を強く醸しだしてて、いや、確かにこういう魂には人間界の罰則が無意味に思えてしまう時が有るなあ、と思わす納得してしまいました。
まったく、少女や猿猴のデザインが可愛いだけに参りました。
決して誰もが楽しめる作品では無いと思いますが、傑作だと思います。同時収録の「砂漠蛙」も佳作です。
ひとの恨みを晴らす現代版始末人の話だが、設定や展開が完全にシュールだ。まるでダウンタウン松本人志のコントを見ているよう。初出が1983年なので明智の先見性がうかがわれよう。掲載誌が『花とゆめ』とはいえ、よくも当時の読者がこんなへんてこりんな少女漫画を受け入れたものだと思う。
ことあるごとにひとに薦めてきたこのシリーズ、ながらく絶版で入手困難であったが、待望の文庫化。癒し系ブームに釘を刺す一服の猛毒、ぜひご賞味あれ。
絶版していたものを読者の希望により復刊されました。 時軸としてはサンプルキティと死神の惑星のちょうど中間に属する話です。 一連の明智抄のSF作品は、SFとしてもすばらしい名作なのですが、 それ以上に、肉親や人生の中で出会う人間との関係や愛憎を紐解き、やるせないエピソードも含めて、最後にはそれぞれの形で昇華へ向かうものがほとんどで、深く考えさせられる作品が多いです。 復刊用に書き下ろされた後書き漫画にはそういった名作の根っこの部分を余りにも正直に書いて下さってあり、読む人を勇気づけるんじゃないかと感じました。
最強の超能力者を生み出す―そんな、人を人とも思わぬ実験の
果てに生まれた、神にも等しい力を持ってしまった一人の少女が、
自分を造りだした科学者に決して成就する事の無い恋心を抱く、
残酷な片思いの物語。
後の『砂漠に吹く風』『死神の惑星』に連なる、時の女神フェアリィと
彼女の永遠の想い人エリィ(=シロッコ)の最初のエピソード。
「ヤキソバ」「ミンチ=ハンバーグ」「ひよこの柄のおふとん」等
所帯じみたアイテムに、SF的世界観の構築と、悲劇へと繋がる
キーワードの役目を担わせている作者の妙技を、是非一読して欲しい。
明智抄の『死神の惑星』2巻の帯に書いてあったコピーは「無冠の天才」。これ以上に、明智を言い表す言葉はないだろう(編集者さんに拍手!)そして本書は明智のライフワークとも言える、壮大な物語の一部である。 マイク・スミス(ありきたりな名前)と呼ばれる優秀なクローンたちが大量生産され、活躍する近未来。端麗な容姿と明晰な頭脳を持つ彼らは人々の(商品として、または人間の理想としての)憧れの的だったが、彼らは悲劇的な病におかされていた。その病を取り除くため、サイコノベリストのジェイの助けが必要になるのだが、彼(?)もまた心の傷があって……。 人間と記憶の関係を鋭く描いた作品。しかしそれが硬く難しく見えないのは、登場人物たちの感情が丁寧に描かれており、感情移入がしやすいからだろう。SFとしての話運びは秀逸であり、連載打ち切りのために最後が尻すぼみなのは全く残念である。絵に対して少し違和感を覚える人も、ストーリーを追っていけばきっと面白いと思えるだろう。 一時は絶版になりながらも、根強いファンの復刊運動によって復活したという事実が、全てを物語っているかもしれない。(実は復刊運動を始めたのは私なのですが←ちょっと自慢)
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