クラシック音楽というと、難しい感じで、どうも苦手に思っていたけれど、アカデミー賞作品賞に使われている映画音楽としてのクラシックということで、「どんな曲だろう」と思い、聴いてみた。 「これって、映画用の曲じゃなくて、クラシックだった。」と映画音楽だと思っていた曲の多くと再会。聴いていると熱烈な映画ファンであるからいくつかの場面を思い起こして涙も出てしまった。 「マンドリン協奏曲」にはダスティン・ホフマンのフレンチトースト、沈みかけるタイタニックの船で演奏される賛美歌、そして「ティファニーで朝食を」のムーンリバーのピアノの音色を一瞬聴いた途端に、たまらなく、感動してしまった。 添付のブックレットには、非常に細かい映画、クラシック曲の解説、アカデミー賞の全履歴など、参考書の用な内容で、カラー解説の見栄えも、なかなか美しく、好きだ。 ということで「クラシック」苦手という僕もこのアルバムを 聴いてクラシック、映画音楽をもっと知りたくなりました。
映画のEnglish patientを観てからこの本を手に取る人も多いだろう。映画に描かれる悲恋は、この本の後半になってやっと現れる。映画はドラマティックであるが、この小説の真骨頂はストーリーではなく、登場人物の心象風景として描かれる微妙な感情である。孤独、悲しみ、つかの間の喜び、故郷の幸せだった時の記憶である。 優れた文学はストーリーが展開しなくても、読み手の中にイメージを喚起し、美しいもの、悲しい出来事を追体験させる。この点で、映画と小説ではかなり焦点が違っている。 飛行機事故で全身を火傷している病人は、名前もわからない。彼はEnglish patientと呼ばれている。英国人であろうという推測からである。そして彼を修道院の廃墟で献身的に看護するHana。 彼女を探して現れたCaravaggioは盗みを職としてきたが、戦争中は情報局のために働いてきた。そして、Kirpalはインド人の工兵で不発弾処理の専門家である。英国軍に入り、機械に関する稀な才能を見出されて複雑な爆弾処理をしている。そして、彼はHanaを慕っている。 四人の人生が絡み合いながら、四重奏として進んでいく。それぞれが全く違った感性を持っており、それぞれが自分のロジックで行動している。その違いが面白い。 登場人物の中でEnglish patientの存在は特異である。未来を持たないEnglish patientにとっては、大切なものはすべて過去にある。思い出としてのみ残っている愛、そして彼の情熱の対象であった古代文明。もうこの世界には生きる意味を持たない彼は、戦争、文明、民族という大きな悠久の流れを背景として、懸命に生き、死んでいく人間の運命を静かに見つめている。 Kirpalのアジア人としての視点はこの小説の中で大きな部分を占めている。著者がスリランカ出身であることを考えると、当然かもしれない。そして、原爆が日本に落とされたことを知ったときの、彼の反応は強烈である。爆弾の怖さを知り抜いている彼は原爆の恐ろしさを十分に想像でき、それが白人の国でなく有色人種の国に落とされたことに、怒り狂う。アジア人として生きるKirpalが、西洋世界で感じる疎外感とか孤独もこの小説の中に重要な低音部として、流れている。残念ながら、このような視点は映画からは全く消えている。 著者の英語は簡潔で読みやすいが、実に美しい。
映画化されたおかげで、例外的にこのシリーズからの文庫化が実現し、マイケル・オンダーチェの名前が一気に広まりました。詩集を含む諸作も次々に翻訳、とまではいきませんでしたが、まぁ「バディ・ボールデンを覚えているか」「アニルの亡霊」が翻訳されたので良しとしましょう。解説で史実としての矛盾を指摘されていたりもしますが、この作家の読みところは静謐な文章であって、作品の描く悲惨さを良い意味で覆い隠してくれています。未翻訳の詩集を除けば、個人的には「ビリー・ザ・キッド全仕事」が一番好きですが、手軽に楽しめる点では映画もあるので、この作品がお勧めです。
華やかな女優たちの、「私を美しく撮るのがあなたの仕事なのよ」とでも言いたげな張り詰めた美しさはもちろん、映画の醍醐味でもあり、プロ意識を感じさせて良いものである。これに対しジュリエット・ビノシュは、フィルムの世界の中の住人となり、生き生きと動き、鮮烈な印象を残す。 戦争が終結した後、患者のもとへやってきて戸口に立ち、「It's raining!」と言って笑う彼女の表情は素晴らしく美しい。こんな彼女を撮ることができたカメラマンや監督は幸せだったろうな、と思う。 そして、ハナとインド人の爆弾処理屋の教会でのシーン。照明筒を手にしたハナが教会の内陣、天井近くまで宙に舞いあがり、壁のフラスコ画を照らし出す。美しく、幻想的なシーンである。 連合軍により撃ち落とされたドイツ軍の複葉機に乗っていた男は、全身に大火傷を負っているばかりか、記憶を失ったと自ら申告し、イギリス人らしいという以外、まったくアイデンティティを持たない。死期が訪れるのを待つばかりのこの男を、看護婦のハナは静かな教会の廃屋で看病し、看取る決心をする。長かった髪を短く切り、せいせいとした表情で微笑むハナは、強くすがすがしく抜けたように明るい。 ドイツ軍により破壊され、至る所に地雷が仕掛けられたイタリアの片田舎。教会の廃屋に、戦争により命をもてあそばれ、運命を変えられてしまった者達が次第に集まり、身を寄せ合う。そして、多くを語らず死を待つばかりのイギリス人患者の、失ったはずの記憶が交差する。 ハナとイギリス人患者の最後のシーン。レイフ・ファインズの目と、ジュリエット・ビノシュの泣きの演技がまた素晴らしい。
ハイビジョン放送のオンエアを録画したBDRと比較して、それほど違いがありませんでしたが、DVDよりはるかに高画質です。それよりストーリーがすばらしく長編ですが長さを感じさせず一気に見てしまいます。監督の演出が見事でした。
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