これはCD3枚組、しかももともと80年代後半に出たものなのでいささか値段が高い。それに当時はノイズ除去技術も今日より遥かに劣っていたので、パチパチとかプチプチとかの雑音がひどい。とてもヘッドフォンでは聴けない音質だ。でも収録されている楽曲の素晴らしさには文句のつけようがない。一曲目の「流線型ジャズ」でまずぶっ飛び、そのままえらくレベルの高い演奏・編曲・歌唱でもって服部良一の作品が次々と繰り出される。「青い山脈」等の定番は当然として、「東京の屋根の下」といった曲にも聞き惚れよう。値段以上の満足をもたらすコレクション。
カッコイイ。 ラストシーンには、思わず唸ってしまう。
この人の作品をみてると、スーッと吸い込まれる。 途中から見ても、作品の世界に引き込まれて、最後まで見てしまう。 それだけの力がある。
この作品だけに限らないけれど、 女優が、演技してるんじゃなく、 本当に生きてる。
しかし、これが1936年の日本映画だと誰が信じるだろう。 溝口監督の、時代を超えたセンスには、ただ驚愕するしかない。
この映画の素晴らしさを的確に指摘した多数のレビューが既にあるので、あえてユルく書かせていただく。
主な出演女優の顔ぶれは、
山田五十鈴、田中絹代、杉村春子、高峰秀子、栗島すみ子、岡田茉莉子、中北千枝子
ってあなた・・・。最初は、何かの間違いなんじゃないかと思ってしまいましたよ。もちろん、「子」がつく名前の女優が多いから何かの間違いなんじゃないかと思ったわけではない。余りの豪華メンバーに目を疑ったのである。
しかも、この七人が協力して「斜陽の芸者界」を救おうなんてことはしない。開始直後から、武者修行よろしく一騎討ちを始める。
共演などといえば聞こえはいいが、決してそんな生易しいものではない。気の強い女優ばかりワザと集めて(だから優しさ溢る香川京子などは絶対に出てこない)、現実で演技を競い合わせることでプライドをくすぐり、潰しあう女の戦場「斜陽の芸者界」を完璧に描ききるのである。
『流れる』という題名は、もののあはれを感じさせてまったく絶妙であるが、同時に、女達の生の習性「裏では流れに逆らってしのぎを削りまくる」という真実の姿を、サラリと覆い隠す仮装としても、これ以上無い効果を発揮している。
ちなみに、本物の『七人の侍』である加東大介、宮口精二も、ある意味「斬られ役」として出演していて、いい出汁になっている。
信じられないのは、これだけの群像劇でありながら、それぞれの女優演じる登場人物の個性がくっきりと記憶に残る(全員巧い)ということである。
それから、杉村春子がコロッケにかけるソースや、氷をねだるシーン。山田五十鈴が「じゃ、私ちょっと出かけてくるからね」と言ってタバコをチョイと吸った後に火を消すシーンなど、何気ないディテールがいくつも、いつまでも記憶に残る。ストーリーよりもむしろ、ディテールにこそこの映画の真髄があるような気がする。
そして、セット(美術)。もはや褒め言葉すら見つからない完成度。成瀬の演出は、相変わらずのキレキレ。等、文句の付け所が一つもない。
最後に、この映画は当時としては珍しく、18R指定での公開となった。なんでも、「社会に出る前の若者の心の裏側をどす黒く染めてしまう可能性がある」との配慮からであったらしい(ウソ)。
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