永遠の1/2 (集英社文庫)
これだけ面白い小説があるだろうか?
とにかく漫画本を読んで笑ったこともあまりない僕が唯一笑えた小説だ。
長編にもかかわらず、飽きさせず、一気に読破してしまった。
しかもタダ短に面白いだけでなく、恋愛での葛藤や、人生における理不尽さなどをリアルに描いている。映画化された映画も好きだった。映画もDVDが早く出ないかと待ち遠しい。
小説の読み書き (岩波新書)
小説家・佐藤正午が月刊誌「図書」に連載した文章を改稿して一冊に編んだものです。
私の記憶が誤っていなければ、佐藤正午はエッセイ集「ありのすさび」の中で、こんな趣旨のことを書いていました。
「『書く』というのは『書き直す』ことと同義だ」。
どんな文章も語句の選定や句読点の打ちどころを、推敲に推敲を重ねて決めていくのが当然の理だと認識すべしという意味のことですが、推敲嫌いの私はそもそも文章を「書いた」ことなど一度もないのだと言われたようで、大いに赤面したものです。
本書「小説の読み書き」は、「暗夜行路」や「雪国」、「山椒魚」や「人間失格」といった著名な日本文学24編(+自作「取り扱い注意」)を、佐藤正午が読んで書いた感想文です。
佐藤正午は本書の中では、それぞれの作品のストーリー展開や構成立てといった点にはあえて注意を向けません。「書く」とは「書き直す」こと、と唱える彼は、作家たちの文体にとことんこだわって論を進めています。
ひとつの文を体言止めふうに書いて行ってさらに靴を履かせて先へ歩かせるようなスタイルを取る林芙美子と幸田文。
直喩を多用する三島由紀夫(の「豊饒の海」)。
性欲をそそるものについては詳細に研究されて書かれているが、性行為そのものは一行も書かれておらず、結果として慎み深さが作品全体に一定のトーンをもたらしている、谷崎潤一郎の「痴人の愛」。
もちろん、文体ばかりに気をとられる読書が良いとは私も思いません。本書によると菊池寛も小説においては内容的価値(主人公の生き方)が芸術的価値(文章の巧緻)に優先すると考えていたようで、私もその意見に与したい気持ちがあります。
とはいえ、本書のように文体を糸口にして物語の深遠な世界に分け入って行くことはひとつの手立てのような気がします。
高校生くらいの読者には得るところの決して少なくない一冊であると思います。
アンダーリポート (集英社文庫)
推理小説として読んでしまうとつまらない。犯罪がありきたり。犯人捜し、殺人動機、トリ
ックも平凡だ。人間心理を追求した小説としてもありきたりの感じがするが。匂いの記憶が
犯人探しのポイントは面白いか。主人公が真相を追究することで実は自分自身も窮地に追い
込まれることになるのだが。新たな殺人につながる危険性が・・・人との関わり、距離感、
記憶の誤差、物語の展開は作者独特の世界だが、ジャンプと比べると・・・?
秘密。―私と私のあいだの十二話 (ダ・ヴィンチ・ブックス)
同じものでも見方によって全然違う。一つの事件も当事者間でその意味は全然違う。立場の違う二人の目から見た一つのできごと。それぞれがとても短い独白で思わずニヤリとしたりホロッとしたり。電話が小道具に使われる話が多いのは元々スポンサー付きの記事だからかもしれないが、声だけでつながって互いの姿が見えないというシチュエーションはこの短編集のコンセプトにふさわしい。というか多分、電話を使うというところから生まれたコンセプト?いずれにしても各作家の特徴がよく現れた小粋な短編集でとても楽しめました。
きみは誤解している
たまたま舞台が「競輪」になっていますが、ギャンブルを忌み嫌う人にこそ読んでいただきたい一冊。実に滋味深い短編小説集です。
ギャンブル好きの人(私も含めて)にとっては、自身のスタイルを見直す格好のテキストにもなるかもしれませんね。
特筆すべきは「付録と解説」。中身については触れませんが、読後、強く印象に残ること間違いなしです。さすが自称“あとがきの達人”です。