ステラー・リージョンズ
後期コルトレーンのアルバムは「オム」に代表される阿鼻叫喚の、金きり声のようなサックスが叫ぶ、長時間吹き荒れる嵐のような作品ばかりではない。
本作はカルテットで、1曲1曲も短くシャープで、嵐の時期をつきぬけた4人が腰を落ち着けて、黄金のカルテット時代に近いジャズを聴かせる。
カルテットといっても、マッコイ・タイナーとエルヴィン・ジョーンズにかわって、アリスとラシッド・アリが彼らの実力と個性を十二分にしている。この時期の高速の曲の演奏は彼らぬきでは考えられない。
嵐の吹き返しのような曲もあるが、M1、3、7等のように、コルトレーンがスピードを落として、ずっしりしたサックスの響きを聴かせてくれる曲が比較的多く、アルバム全体に新鮮さがある。
録音時期はインターステラー・スペースとほとんど変わらない。コルトレーンが残り少ない持ち時間の中で多彩なアイデアを表現して豊富な音源を残してくれたことは幸いだ。
黄金のカルテット解体以降の後期コルトレーンの音楽はどうも、という人には、本作はその音宇宙に近づくための良き入口になるだろう。
Cosmogramma [ボーナストラック・解説付き国内盤] (BRC254)
フライング・ロータスことスティーヴン・エリソンは米トラックメイカー兼プロデューサー。親族にジャズ・ピアニストのアリス・コルト
レーンと巨人ジョン・コルトレーンを持ち、その他も音楽家を多く産出するまさにサラブレッドの血統を引く。幼少から吸収した
多彩なジャンルの音楽の素養を絶妙に織り交ぜる独自の感覚をもった新世代の精鋭トラックメイカーの最右翼として期待されて
いる人で、本作は彼の3枚目。
本作収録の音楽には彼の持つ膨大な音楽知識と手法が遺憾なく発揮され、簡単にジャンル分類を許さない。聴く方は冒頭から
不意に仕掛けられる、高圧ブレイクビーツと電子音の激流にただ圧倒されるが、次第に驚きを通り越して音楽に快楽と美しさを
感じるようになり途中で作品を止めることができない程の中毒症状になる。収録された全17曲(ボーナス・トラック除く)は約2〜3
分の尺で次々に流れていくが、1曲の中でさえ曲調が変わりその度斬新なアイデアに驚きを覚え、全尺45分が異様に短く感じる。
エリソンの音楽の特徴としてまず、ヒップホップに多大な影響を受けたと公言する彼らしく、全編に貫かれるスリリングなブレイク
ビーツがある。ビートを刻む手段は様々だが、絶えずパターンを変えながらも刻み続けられるリズムによって音楽が極めて聴き
易くなっている。さらにその秀逸なビートに乗る上物もひっきりなしに姿を変える。ある時は未来的な感触の高圧電子音攻撃、時
にはメランコリックなアナログ楽器(弦・ハープ・ギター等)の音や人の声、さらにはそれらの要素が同時に交錯する様は何より聴
いていてぞくぞくする程格好良いし、耳に心地良いことこの上ない。さらに構成も良く練られており作品内での緩急の付け方が絶
妙なため、密度の濃い音楽にも関わらず不思議と聴き疲れを感じさせず、終わった後は衝動的に冒頭から再びリピートしたくなる。
これ一枚を聴くだけでも、ジャズ・テクノ・ヒップホップ・クラシック・ソウル・現代曲…と彼が今まで通過してきた広大な音楽系統図が
くっきりと浮かび上がる素晴らしい仕上がり。秒単位で鮮やかに形を変える最高に洗練されたミクスチャー、強く推したい。
ライヴ・イン・ジャパン(完全版)
この作品を聴いて初めてJohn Coltraneを聴いて泣いてしまった…至上の愛を聴いても泣かなかったのに…このとてつもなく長く熱い演奏を聴いて泣いてしまったのか?それともColtraneが遥々遠くアメリカから日本に来てくれたことが嬉しくて泣いてしまったのか?多分自分は間違いなくまだ後者だろう。晩年のColtraneの音楽には[理解]という言葉がついて回るColtrane自身もインタビューに次のように答えている。今は理解できなくとも、いつか突然、あるいは繰り返し聴くうちに理解できるようになる。または全然理解できないままであるかもしれない。そんなものだよ。人生には理解できないモノだっていっぱいあるからね(笑)(インタビューの一部を引用させてもらいました)自分はまだまだこの演奏を理解できていないと思う。だからこれからじっくり時間をかけて熟聴して理解できるようになりたいと思うし自分の耳はまだ至上の愛の良さは理解できる辺りの耳だと思う。(アセンションでも自分にはまだまだ↓)この作品は単なるJohn Coltraneの歴史的日本公演ではなく勉強家だったColtraneから日本のリスナーへの贈り物であり宿題だと思った。あなた方には良い音楽を聞き分けられる耳を養って欲しい…John Coltrane…ってね♪
後この商品について、日本盤は高額ですが輸入盤に比べ遥かにしっかりと作られていると思います。日本人が持つ緻密さと高い技術力と購買者に対する配慮を感じました。この位の価格を支払っても納得の商品です。同じ日本人として誇りに思います★★★★★Thank you!
オラトゥンジ・コンサート
現時点で所在がわかっているコルトレーン最後のライヴ音源。演奏日時・場所は67年4月23日午後4時、NYハーレムのオラトゥンジ・アフリカ文化センター。
オラトゥンジ文化センターとはナイジェリアのミュージシャンであるババトゥンデ・オラトゥンジの名にちなみ、アフリカの文化を後世に伝える場として創設された。完璧な録音ができる場所ではない。外の車のクラクションが聞こえるほどだ。そこにポータブル・レコーダーを持ち込んで、「記録」のために録音され、アルバム化まで35年もお蔵入りしていたテープ。したがって、録音状態は良くない。
残り少なくなった命がしぼりだす、凶暴なまでの、魂の咆哮という表現がぴったりの爆音ライヴ。ロックに例えるなら、キング・クリムゾンのアースバウンドのようだ、と言えば理解してもらえる人が多いのではないだろうか。録音の悪さが却ってコルトレーンの演奏の芯を際立たせる逆説。がんに侵され、3ヶ月後に他界する人が出すエネルギーとはとても思えない。
マイ・フェイヴァリット・シングスは原形をほとんど留めないが、コルトレーンが繰り返し演奏した曲が遺された最後のライヴ録音となったのも奇遇。突然終わる録音が、却って余韻を残す。
コズミック・ミュージック
M1とM3がコルトレーン生前・66年の録音。66年コルトレーン・サウンドの特徴である、コルトレーンとファラオ・サンダースのサックスが咆哮するパターンの曲だ。特にM3は冒頭は穏やかなマントラで始まるのに、すぐに混沌としたフリーの世界に突っ込み、最後はまた穏やかになってマントラの唱和で終わる。嵐の合間に一瞬の静寂が訪れる、という私の好きな66年・コルトレーン・サウンドの1例だ。
M2とM4はアリス・コルトレーン、ファラオ、ジミー・ギャリソンにベン・ライリーがドラムとして加わったカルテットで68年に録音した曲。どちらもアリスが作曲し、アリスのピアノがリードする。M2はゴスペル風でアリスの力強いピアノが聴ける。M4は短いが、夫を追悼するかのような静かな曲。アリスの流麗なタッチが冴える。
夫の在世中はバックで支え、死後は夫の遺志を継いで未発表作を適切にリリースし、かつ自らも創作活動を継続したピアニストとしてのアリス・コルトレーンの存在の大きさが光る作品だ。