絞殺魔に会いたい (ハヤカワ・ミステリ文庫)
警察官や職業探偵を主人公に据えた推理小説に比べると、素人が事件に巻き込まれるというタイプの推理小説にはどうしても「一般民間人がそんなにしょっちゅう殺人事件に巻き込まれるわけないじゃん」という印象を抱かせてしまうという難点があります。今作はそんな欠点を逆手にとってギャグにしてしまっているところに面白さがあります。
3度にわたって絞殺死体の第一発見者となったヘイスティングスは当然のように警察から疑われることになります(その為にわざわざ今回登場する警官は彼と仲の良いマコーリフ部長刑事ではなく、別の刑事にしてある)。詳しくは敢えて書きませんが、その過程で警察が持ち出す珍説は大いに笑えます。
絞殺魔 [DVD]
若干、知ってしまうと興が削がれる部分があります。シリアルキラーもので長らくDVD化されていなかった1本。当時としては実験的だったマルチ画面を多用した(今となってはさすがに新奇さは感じられない)真っ当な実録犯罪映画で、40年以上経った今でも充分鑑賞に耐え得る作品。内容は概ね事実に即しているが大きく異なるのは、実際のボストン・ストラングラーが異常性欲者で、殆ど自白しか事件の全貌を明らかにする術がなく司法取引しているのに対し、映画では犯人デサルヴォを多重人格者として設定、責任能力を免責しているところだ。映画的にはこの方が良いと感じたが、多重人格の原因を描くまで行かなかった点、奥行き不足となった感は否めない。なかなかユニークなのはデサルヴォを演じるトニー・カーティスが(残念乍ら今年亡くなったが、当時43歳のカーティスが皆さんの評価通り素晴らしい演技を見せている)顔を表し登場するのが映画が半ば過ぎたところという点だ。この構成には唸らされた、上手い。実録シリアルキラー映画として私が最も評価する『CITIZEN X チカチーロ』には及ばないものの見て損しない作品です。
Ua Singles 1977-1982
70年代後半のロンドンオリジナルパンクの時代にあってThe Stranglersの面々はすでにキャリアを積んでいて、容姿もJan Jack以外は「らしく」なく、パンクバンドというにはいささか年齢もいっていました。ただ「パンクとはアティチュード(態度・姿勢)だ!」という有名な言葉を借りるならば彼らほどパンクな奴らもなかなかいない。他のパンクバンドのご多分にもれずシングル盤が重要な意味をもっていたこの時代ではオリジナルアルバムを聴くよりもシングルの方がバンドの本質と変遷をつかみやすく、このシングル集はもってこいです。初期の力強いナンバーからだんだんと「欧州」を意識して音楽性を広げていった彼らの魅力がたっぷり詰まっています。日本ではだんだんと人気が無くなっていったように思いますが、実はヨーロッパではこの3枚組の後半の方が良く売れていたはず。メンバーは変われど現役でしっかりと人気のある彼らの初期を知る好盤です。同様の趣旨のBuzzcocksのComplete Singles Anthologyもおすすめ。
Black & White
ストラングラーズの名盤が紙ジャケ盤で甦る。。これは大変嬉しいことである。
この「ブラック・アンド・ホワイト」を始めて聴いた時の衝撃は今でもはっきりと覚えている。
私見では、初期のパンクムーブメントはストラングラーズのこの「ブラック・アンド・ホワイト」で一つの結実をみたと考えている。
このアルバム全般に及ぶ暴力的ともいってよいサウンドはまさしくパンクである。
だが、聞き込んでみると、彼らはここで様々な実験的ともいえるような試みを加えており、極めて知性的なサウンドでもある。
このアルバムの凄まじいまでの迫力は暴力・狂気と理性・知性の強烈なぶつかり合いから生じるものだと考えられる。
初期パンクムーブメントは衝動の産物であったとすると、それを理性で御して次のステップに進む作業が必要であった。
その作業を担ったのがこの「ブラック・アンド・ホワイト」であると考えている。
このアルバムは初期パンクムーブメントの結実、総括という意味合いのある非常にエポックメーキングなアルバムである。
これまでピストルズやダムドしか聴いていないという若い諸君には、ぜひ聴いてもらいたい一枚であると思っている。
ヒルサイド・ストラングラー 丘の上の絞殺魔 [DVD]
この手の実話犯罪物は映画化すると実際とは全く別の物になることが多いが、本作品は及第点。今まで見た中ではおそらく一番再現性が高い。
実はこの犯罪、犯罪そのものよりも裁判の過程の方が犯人の人間性が出て酷いのだが、さすがに話がグダグダになるので削ったのだろう。
警官志望→偽セラピスト→ポン引き→連続殺人という流れは人間の転落がいかに簡単に起きるかを思い知らされる。まあ元々の資質に問題があったのだろうが。
女性蔑視や女性敵視が根底にあると思われるこの犯罪では、自分の妻にだけは固執し哀願してまでも側にいようとする真逆の一面も見られる。
再現性の高さにだけこだわると映画として破綻することが多いが、この作品では何とか崖っぷちで踏ん張っている。