赤紙―男たちはこうして戦場へ送られた
徴兵制度、戦前の日本男児は避けて通れないものでした。徴兵検査に合格しないことは、一人前の男性として見られないものといった風潮もありました。この徴兵制度を役場の兵事係として各戸に配達していた、ちなみに直接本人に手渡しが原則です。郵送はなかったそうです。この兵事係として徴兵事務を扱っていた生存者の方の貴重な体験記を取材することで徴兵制度が非常に分かりやすく解説されています。2度目の徴兵で家族の前で泣く方は必ず、その村では戦死するという話があり、殆どの方がそのとおりになってしまう、というのが胸を突きます。敗戦に伴う混乱から焼却・散逸をせず一括で残っていた資料と体験記がとても参考になります。面白い本です。
あなたは遠いところに [DVD]
ベトナム戦争を扱った韓国映画は極めて少ない。朝鮮戦争後、韓国最大の出来事だったはずだし、アメリカでは多くのベトナム戦争映画が作られていることを考えると奇妙に思える。何故だろうか。
韓国映画としては珍しくベトナム戦争を扱ったこの作品の直接的なターゲットは、ベトナム世代の男性たちだろう。当時の流行歌を今の娘に歌わせ、往年の戦士たちを劇場に集める作戦だ。タイトルチューン「ニムは遠くへ」をはじめ、今のK-POPとは毛色の異なる泥臭い歌謡曲を、21世紀の女優が熱唱してみせる。
唯一の洋楽として「スージーQ」が使われているのは、コメディ要素を強調するためか。韓国ではこの曲のCCRバージョンが有名コメディアンの出囃子として使われていたので、イントロだけで笑いを誘えるのだろう。ただし最後の公演シーンではこの曲をストーンズばりに不良っぽくキメてみせ、内気だった主人公スニの成長と決意の大きさを表現していた。
主人公スニは愛のない結婚生活を送っていた。ソウルの大学に通っていたからか山出しのスニに興味が持てない夫は、結婚早々逃げるように入営しその後何も言わずにベトナムに行ってしまう。家の存続しか頭にない姑は、すべてをスニのせいにして追い出しにかかる。体面を気にする実家にも戻れない。強固な血縁社会で身の置き場を失ったスニは、夫に会うためベトナムに渡ることを決意する。
しかし民間人が自由に海外へ行けるはずもない。思案に暮れるスニだったが、怪しげなバンドのボーカルとして渡越に成功する。だが英語のできない素人歌手に米軍基地での公演が勤まるはずもなく、ブーイングを受けて消沈する。苦肉の策で韓国軍人の前で「鬱陵島ツイスト」を歌ってみたところ大受けし、バンドは韓国軍専門の慰問団としてツアーを開始する。さて、スニは夫と再会できるのだろうか。
この映画でどうしても不可解なのが夫の設定だ。妻を愛することもできず、ただ逃げるだけの男。ベトナムに行ったのも、軍人の使命感から志願したわけではなく、営内の不祥事で飛ばされただけ。もちろん戦場でも役立たず。懐メロと若い娘の脚線目当てに劇場に詰め掛けたお父さんたちも困惑したに違いない。外地に駆り出されても健気に働く善意の兵士になら、すんなり感情移入できただろう。しかし、気のいいバンドマンたちとは対照的に、夫は徹底してシンパシーを持ちにくい、陰気で無能かつ不誠実な男として描かれ、映画全体のテンションを下げている。モチーフにした曲「ニムは遠くへ」の歌詞の内容が、男に尽くした挙句捨てられた女の歌なので、それを反映したということはあるだろうが、それにしてももう少し魅力的な男にできなかったものか。
この映画ではベトナムを善良な被抑圧者として描いている。「ベトナム戦争映画」としてはこのような描写は当然に思えるが、実はこのようなベトナム戦争観は韓国では比較的新しい。民主化前には、分断国家という冷戦の最前線で亡国の危機感を常に抱えていたアジアの貧国が、同じ境遇の国を支援した聖戦という見方が圧倒的だったはずだ。また、多大な犠牲を払い、その対価として多くの外貨と米国の信頼を得たことは、その後の経済的飛躍に直接つながっている。ベトナム参戦を全面否定することは、現在の自分たちの否定になりかねない。連戦連勝を重ねた世界最強国アメリカが、初めて喫した黒星としてベトナムを振り返るのはある意味余裕の産物なのだろうが、韓国はそうは行かないのだ。
だから、あまりに韓国兵をダークに描き過ぎたり、ベトナムを絶望の戦地としてのみ扱うことは、現在の韓国では難しく、直接的な反発も買うのだろう。だが逆に兵士をあまりにイノセントに描いたり、すべてを戦争のせいにして誰もが気の毒だったとしてしまうことは、陳腐な反戦映画になってしまうのみならず、当事国の人間、ベトナム戦争の果実を享受する現代の韓国人としては無責任になってしまう。
このような複雑な事情があるので、韓国の映画人はベトナム戦争映画を作りたがらないのだろうか。この作品では、何重にもなった矛盾をコアターゲットの中高年男性に考えさせる機会を与えるため、あえて夫を好意を持ちにくい存在にしたのかもしれない。
恋した人は韓国人。―日韓カップルがうまくいく条件
どうやらブログも終わってしまったようですが、日本でどのような結婚生活を送られているのか子育て等もやはり日韓で違う部分もあるだろうし二人がどのように乗り越えてゆくのか気になります。
遠距離恋愛、彼の兵役、韓国の彼のご両親や自分の両親のこと、韓国への留学…可愛い日記みたいな内容でスラスラ読めました。
兵役のときの寂しさ、お互いに不安な気持ちになってて感情移入してしまい泣けました。
韓国陸軍、オレの912日―いま隣にある徴兵制 (オフサイド・ブックス)
映画シルミドを見た後に読んだのですが、シルミドの訓練&体罰は本当だったんだ。軍隊賛歌というレビューではないのですが、この本はつらいことも笑い話にしちゃう作者のおおらかさが光っていて、電車の中で読んでいて吹きだしそうになるのをこらえる位でした。で、韓国陸軍の上官の口の悪さといったら・・。本当にこういうこと言うの?手榴弾がはねて戻ってきちゃう話とか、仕事ボイコットして上司が迎えにくる話、爆笑です。
韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)
分断国家ゆえに韓国では今も有事に備えて男子には約2年間の徴兵制がある。これが青年期の大きな重圧になっている現実が淡々とつづられている。
最近、芸能人や野球選手の徴兵逃れのニュースが日本にも伝えられているが、その背景や人々の怒りは徴兵制が韓国社会を語るうえで切っても切れない存在であることを知らずには理解できないものだ。韓国の軍隊は創設以来たびたび北朝鮮の兵士と戦闘を行い、多くの血を流してきた。その軍隊で兵役につく緊張感は多くの読者が初めて接するものだろう。
副題が示すように本書の半分以上は徴兵制について割かれている。内容は具体的で入隊時期や配属部隊がどのように決まるのかなど、客観的な説明も多い。しかし著者の体験も含め、入隊を間近に控えた若者の不安な気持ち、あるいは軍隊生活はつらかったが何事もやりぬく自信が身に付いたと退役後に懐かしく回想する何人かの手記も織り込むなど、堅苦しい制度の解説にならないような配慮がなされている。
本書は戦後の韓国軍の歴史にも触れているが、これは米韓関係や韓国の政治風土を理解するうえで興味深い。軍隊は韓国社会にとって極めて大きな存在で、韓国の戦後史が微妙な安全保障上のバランスの上に成りたってきたものだということを改めて思い起こさずにはいられない。例えば、日本の敗戦以来韓国に駐留を続けていた米軍の大部隊が1949年に撤退した翌年に北朝鮮軍が38度線を越えて朝鮮戦争は始まったという記述は、現在進められている在韓米軍の縮小の動きを考える際によみがえってくる。
著者も徴兵されて軍隊経験を送ったひとりだが、中立の立場で書こうとしたことがよく伝わってくる。著者は軍隊や徴兵制を必要としてきた戦後の韓国社会の現実を語る一方で、そうした状況を「帝国主義の産物」とみなし、「私たちは決して望んでいるのではない」と締めくくっている。
韓国の軍隊について関心があって本書を買ってみたが、得るものが多かった。韓国社会を理解するための好著である。