トランスアメリカ [DVD]
それぞれが過去と向き合い、現在の自分を見つめ直す旅の結末は、意外なほど清々しいものでした。
性同一性障害、性的虐待、暴力、親子の葛藤、など父と息子が抱える苦悩は重苦しいものばかりなのだが、前向きに歩み始めた二人の姿が新たな未来を予感させるから。 さらに、お互いを認め合うことによって、親子の絆が深まっていくことに素直に感動を覚えるからなのだろう。
学歴も経験も無い、ただ美しいだけの少年が手っ取り早くお金を稼ぐ方法、などの危い場面を嫌みなく演じたケヴィン・ゼガーズは、ただの美形にはない存在感の片鱗が.....今後の活躍が楽しみである。
そして何といっても、この作品は主人公役のフェリシテイ・ハフマンに尽きるだろう。「デスパレートな妻たち」の髪振り乱して子育てに奮闘する元キャリア・ウーマン役。演技力の素晴らしさは今までにも印象に残っていたが、本作では驚きと共に、まさに役者魂を見せられた。予備知識なしに観るのだったと最初は後悔したが、観ているうちに男優か女優かなんてどうでもよくなってくる。主人公ブリー以外の何者でもないからだ。
24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)
もし自分がビリーだったら・・。正気ではいられないだろう。しかしこれは真実の記録であり、24人という多重人格を持つビリーミリガンと、彼の人格をひとつにする為に尽力する医者達が中心となったノンフィクションである。殺人、レイプ・・。彼が(彼の中の人格が)犯した様々な犯罪の影には、幼い頃父から受けた幼児虐待があった。
作者のダニエル・キイスは、ただノンフィクションを描いたのではない。彼は人間の心を紐解く重要な役割を果たし、読者の心の奥に訴えかける作品を作り上げた。まったく同じ事実でも、彼が描いたようにこのストーリーを書ける者はいないだろう。国を超えて読まれ、愛されるのには理由がある。是非読んで頂きたい。
科学でわかる男と女になるしくみ ヒトの性は、性染色体だけでは決まらない (サイエンス・アイ新書)
性の分化は、実に謎に包まれている。
本書はその謎を科学的に解説した真面目なものであり、けっして興味本位のものではない。
性別には男女の二種類しかない。
しかし、その間のいわゆるグレーゾーンというものがある。
それには、胎児期における心の性分化と体の性分化の時期の違い、が関与している。
これが分かると、いわゆる「オネエキャラ」タレントと性同一性障害の違いというものが理解できる。
また、社会的な性別、いわゆるジェンダーのことや、発達の男女差などまでが本書では述べられている。
しかし、本書で著者が最も強調したいことは、おそらく巻頭の身体と精神の性別のズレ、というあたりだろう。
本叢書はイラストが多く用いられており、本書もまた色鮮やかな、そしてかわいいイラストが多数掲載されている。
そのため、人前で読むのは結構恥ずかしい。
満員電車などでは少々開きづらい。
しかしそれに反して、その内容は性分化について真摯に、そして分かりやすく解説されている。
自分の性を理解するために、また異性を理解するために、本書は必読である。
また、さまざまな理由でグレーゾーンにいる人たちを理解するためにも、本書はよい助けとなる。
性に対する違和感がアブノーマルなものと切り捨てられないために、という著者の姿勢が非常によく分かる一冊である。
わかりやすい「解離性障害」入門
解離について、通っているカウンセラースクールで軽く触れ、興味を持ち、この本を買いました。読みやすく、あらゆる解離性障害について、申し分ない説明、実際の臨床例が多数、載せてあり、とても良かったです。専門家の方にも、役立つ本だと思います。入門とは思えない優れた本です。
片想い (文春文庫)
やはり東野らしく暖かな小説です。
見た目と内面の不一致は人に混乱と苦悩をもたらしますが,その際立った形として性同一障害をとりあげています。
保守的な常識だけにもおもねらず,ラディカルフェミニズムにもはまらず,主人公であるQBは友人を救おうとします。
しかし,常識的な人間はとても残酷なものです。
彼は何とかしたいとあがきながら,救済することが出来ません。
その姿は著者の思いを反映していると感じました。