大奥 第4巻 (ジェッツコミックス)
「きのう何食べた?」で人気のよしながふみさんの、男女の役割が逆転した江戸時代を描いた長編漫画の最新刊です。全巻のラストでは、将軍家光が自分が女であることを公けに発表したところで終ったので、この巻でも家光と、彼と相思相愛の万里小路有功、通称お万の方との切ない恋愛物語が描かれると思っていたのですが、あにはからんや、その二人の恋愛物語はわずかにこの巻の三分の一ほど。残りは、娘である四代将軍、家綱。五代将軍、綱吉の時代へと物語は移ってゆきます。
前巻とこの巻での家光とお万の恋物語が、本当にあまりにも切ない恋物語だっただけにそういうのを期待したので中盤以降は、一読したときには肩透かしを喰らったように感じましたが、よくよく考えれば、この巻の権謀術作と嫉妬・妄執が繰り広げる歴史絵巻こそが「大奥」という歪な世界の通常のありようだったわけで、そういう意味では本来の姿に戻ったということなのかも知れませんし、変にバイアスをかけずに読めば歴史絵巻としても十二分に面白いです。それぞれの心のありようが生み出す悲喜劇は、男女が入れ替わっても決してなくなるものでなく、むしろ深くなるようにさえ見えます。
また作品としてこたときには、どんどんと主人である将軍が入れ替わっていく中で世界がどう変わって行ったのかを描いていくこの世界の描写は、事実の歴史変革と奇妙に符合していて、見事にもう一つのあったかも知れない世界を構築していて、素晴らしいです。
ただ、やっぱり最後に話は戻ってしまいますが、お万と家光の愛の形はあまりに切なくて辛いです。最後に褥をともにする日の会話等は本当に切なくてぐっときました。傑作です。是非読んでほしい漫画です。