トリツカレ男 (新潮文庫)
物語の序盤は、なにかに本気でとりつかれちゃう(夢中になってしまう)男、ジュゼッペの突飛な行動を描いていって……ホップ!
そんなある日、トリツカレ男のジュゼッペが、孤独を抱えた少女と出会って……ステップ!
そして……ジャンプ!
とまあ、詳しく語ることは控えますが、一気に読めて、心がほかほかしてくる素敵な物語です。読み始めて最初のうちは、妙な人物が出てくるおかしな話だなあぐらいにしか思わなかったのですが、上記の「そして……」と話がジャンプする辺りから、がしっと話に掴まれて引き込まれていきました。
トリツカレ男の行動を見守っていくうちに、「ジュゼッペーっ、負けるなー。あきらめんなよー」と応援したい気持ちが、ずんずん、ずんずん、湧いてきました。彼のどうしようもない一途なところが、まっすぐに突っ走るところが、とても愛しく思えて、読んでて目頭が熱くなりました。
ぶらんこ乗り (新潮文庫)
ぶらんこのり、を読み終えてすぐに行ったスキー、
ナイトスキーのリフトに乗ると、
夜のぶらんこで過ごしていた「弟」の気持ちがわかる気がした。
この世からちょっとはずれてしまいそうな不安定な空中で
ヒット曲の音が遠ざかる、スピーカーとスピーカーの間の、
その感覚が不思議でもう一度と、なんどもなんどもリフトに乗った。
読んでから、なんどもなんども思い出す。魔法の本。
プラネタリウムのふたご (講談社文庫)
今年ベスト(出版はちょっと前ですが)に出会ったしまった感じです!
一見ファンタジー作品に見えるこの本、実は避けていましたが、某雑誌でおすすめ本になっていたのでチャレンジしました。読み始めは舞台背景がわかりにくく、ちょっと取っつきにくかった。双子と育ての親の温かいお話・・・で終わるのかな?と思って読み進めました。しかし、村にある異集団がやってくることによって物語は急転します。後半は、「そうだったのか!」と謎解き的なおもしろさも味わわせてくれました。またこの物語は、牧歌的なように見え、実は現代社会の孕む問題(環境・民俗習慣の破壊・依存の問題・・・)も内包した、かなり計算されて編まれた作品ではないか?とちょっと深読みもしてしまいました。
ラスト、切なくもさわやかな涙があふれることは請け合い!
「読まず嫌い」のままでいなくて本当によかったなぁ。迷っていらっしゃる方はぜひどうぞ。
本屋の窓からのぞいた京都 ~恵文社一乗寺店の京都案内~
京都・左京区にある“本にまつわるあれこれのセレクトショップ” 恵文社一乗寺店の店長とスタッフによる、本と京都と周辺の人々を取り上げた本です。
本好きには有名な恵文社一乗寺店です。9ページにお店の中が一部写されていますが、本屋さんなのに書店という範疇で片付けるのは難しいお店です。配列はジャンルごとに文庫や新書も交えて厳選されており、置かれた本の良さがこの店の持ち味でしょう。
昔、京一会館に通っていた頃に初めて入り文庫本を買ったのが最初ですが、その頃はごく普通の書店でした。歳月が経つうちに見事な変身を遂げたと思っています。学生の街・左京区ならではの雰囲気を漂わせています。
本書も本のセレクト同様、近くのお店を中心に、左京区で生活しているような日常の京都を取り上げています。また恵文社に関わる外部の方の個性が本書の範囲を広げており、交友録のような色彩も帯びています。
見開き2ページで一つのテーマ、1冊の本、一人の本、1つのお店を紹介しています。
132ページには懐かしの京一会館の思い出も綴られています。またエッセイストの甲斐みのりさんが恵文社に憧れて京都で雑貨のお店を開いたことが紹介してありました。影響力大のお店ですね。
なお登場するお店の住所や電話番号は掲載してあり、巻末の地図で辿りつけられるようになっています。京都観光のお供にどうぞ。
本書の内容の一部です。
第1章 こんな本や雑貨を売ってきた(『ブランコのむこうで』、『みんなの古本500冊』 ほか)
第2章 本屋から始まり、京都へ(鴨川三角州、3つの古本市 ほか)
第3章 ふだんのおいしいもの(y gue、双鳩堂 ほか)
第4章 一乗寺人間山脈(創る和紙職人 ハタノワタルさん、型絵染め作家 関美穂子さん ほか)
第5章 京都今昔(イノダ西東、「迷子」の昔話 ほか)
ピアノ
何がいいって、ピアノの音がいいんです。
だってタイトルがピアノだもんね。で、そのピアノで奏でる曲の素晴らしい数々。そしてピアノを囲む仲間たちの音のあったかいこと。
ラストの『トゥインクル』でのASA-CHANGのにこやかなドラム、永積タカシの天から降り注がれるような美しいコーラスには何度聴いてもうっとり。
このセッションには笑顔が溢れてます。
いい音楽とは昼夜問わず、どんなときでも聴けて、知らぬ間に口ずさんでたり、思わず口笛が洩れてしまうようなもの。
小春日和なんかに寝転がって聴くのが一番最高だろな。
雑誌クウネルの世界にも通じるな。
こういうなんでもない自然な生活を送ってるのが一番幸福なんだよな。
そんな音楽。余計なもののない無添加な音楽。
血がさらさらになるような音楽。
ちと誉め過ぎ?
いや、ほんとにいいんだから。