27歳のブラームスがどうやら失恋した後に書いたらしい弦楽六重奏第1番。第2楽章は、ルイ・マル監督のフランス映画「恋人たち」にも使われて有名。ジャンヌ・モロー主演のこの映画は、かなりどろどろの恋愛もの(さすがフランス映画)だった記憶があるが、このCDを買おうと思ったきっかけは、アイザック・スターン他の弦楽六重奏第1番を聴いて、とても感動したため。2番も聴いてみたいなあとおもって捜していたら、アマデウスQのこれが、かなりのお値打ち価格で発売されていた。
演奏は精練されていて響きの美しい名演。有名どころの第二楽章はさすがに美しい。これを聴いてるとブラームスが失恋した後の嘆きも聞こえてくるようである。2番は始めて聴いたが、これまた美しい哀愁を帯びた曲。弦のアンサンブルが心地よい。
でも、やっぱり音の色つやというか哀愁を帯びた色っぽさというかは、スターン版の方が上(聞き慣れてるせいもあると思うが)のように感じられる。よって星4つということで。
モーツァルト生誕250周年の今年、今後様々な「便乗本」が出てくることだろうが、そんな中にあって吉田秀和氏の本書はいよいよ輝きを増すことだろう。
内容的には過去のモーツァルトに関する評論をまとめたものなので、さすがに古くはなったが、古い名演奏が今でも聴き継がれているように吉田氏の音楽に対する確かな耳とそれを的確に、流れるように綴った文章は色あせることがない。格調高い語り口は今なお新鮮である。
モーツァルトに関心を持ち始めたとき、本書に紹介されている演奏を片端から聴いたことが懐かしい。そしてその選択が今でも正しかったと思っている。
吉田氏はもうかなりの高齢となってしまったが、惜しむらくは氏の後継者が育たなかったことか。威勢のいいはったりや耳に優しい文章をを並べることはできても音楽の本質に深く切り込める評論家がいかに少ないことか。
音楽史に永遠に残る天才の人間像が、こんなにお調子者で、軽薄で、この上なくお下劣ってのが映画的っていうか面白かったですね。天才は天才であるが故に秀才が一生懸命努力して成し遂げた成果をいとも簡単に鼻歌交じりで突破してしまう。しかも秀才であるサリエリには、近辺の誰よりもその芸術性の崇高さが理解できてしまう。
こういう芸術家同士の相克ってのは、神代の昔からあったんでしょうね。政治家の与謝野馨が、祖父の与謝野鉄幹(秀才)と与謝野晶子(天才)の関係がこうであったと何かの新聞に書いていました。 「神は天上の音楽を理解できる耳を与えながら、天上の音楽を作曲できる才能は与えてくれなかった。」と言うサリエリの魂の叫びは、過去から現在に至る多くの秀才型のクリエイター達の魂の叫びと同一でしょう。
モーツァルトのあの笑い声、神に選ばれた最良の者が、それ以外の凡人を見下すようなあの「ヒャッハッハッハッハッハッハ」というメチャクチャ感に障る笑い声。サリエリは彼が死んだ後も永遠にあの笑い声の残像に悩まされた事でしょう。神の恩寵を受けたモーツアルトに対し、神に見捨てられたと解釈したサリエリは復讐を決心し、晩年その事を神父に告白しますが、救いを与えるべき神父が語る言葉を失っていく様子が印象的でした。
クラシック音楽の名曲を分析し、その秘密を解き明かしている本。NHKの番組が元になっている。オールカラー。76分のCDつき。取り上げられているのは以下の12曲。
1.ラベル/ボレロ:複数楽器に異なる調を割り当て倍音効果。ファゴットやトローンボーンは通常より1オクターブ高い音。転調も奇抜。 2.ドボルザーク/新世界より:ドレミソラの「ヨナ抜き音階」。休止にフェルマー。4つの主題が最後に重なる妙。 3.モーツァルト/クラリネット五重奏曲:シャリュモー領域とクラリーノ領域の巧みな使い分け、バイオリンとクラリネットの対話。 4.ベートーベン/交響曲第9番合唱つき:レチタティーヴォ。歌いやすい5度の範囲だけで書かれた喜びの歌。「抱き合おう」「喜びよ」の2つの旋律の絡み合い。 5.バッハ/無伴奏チェロソナタ:3つの旋律が隠されたプレリュード。 6.ショパン/英雄ポロネーズ:ポロネーズのリズムがそのまま出てくるのは7小節だけ。 7.サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン:5123の旋律。 8.シューベルト/ピアノ五重奏曲鱒:コントラバスを入れてピアノとチェロが高音部により注力できるようにする。次々主役が入れ替わる変奏。 9.チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番:ピアノは和音を打ち鳴らしてオーケストラの伴奏役として登場。 10.ドビッシー/月の光:ポリリズムを利用したパスピエ。セブンスを11回連続させて漂う雰囲気を演出。 11.ホルスト/惑星:ミソラとラドレをずらして重ねる。同じメロディーを1オクターブ上げながら繰り返しクレシェンドも行うことで劇的な雰囲気。 12.ショスタコービチ/交響曲第5番:解決されないカノン。カルメンのハバネラ流用に隠されたメッセージ。
カラーマーキングされたスコアが多く入っており、コミカルなイラストや、専門家の解説も加わって、とても楽しく読める。CDには演奏だけでなく、監修の野本氏の説明もある。なるほど、という納得感満載で、とても有意義な本だった。
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