長い長い小説ですが、全巻一気に読み終えてのレビューです。
本当にひどい話です。誰も幸せにならない。
傷付き、悩み、もがき、結局誰も救われない。
その描写力も半端でないです。
ものすごい量の参考文献からもわかりますが、心を病んだ人間について、作者が徹底的に調べ上げ、それらと向かい合うことで完成作品であることがわかります。
この作品を完成させるために、作者が心身を病んだというのもわかります。
量も量なので、登場人物の「人生の重み」がありありと迫って来ます。
その結果、読後にはかなりの疲労感を伴います。
「さくっと読めました」なんてレビューしてる人もいますが信じられません。
けれど一方で、登場人物たちを羨ましくも思えるのです。
僕はここまで人生に真摯に取り組んでいるのだろうか。
これほど自分のその後を想い合ってくれる仲間はいるのだろうか。
これほどに人生は険しく、美しいものなのか。 自分のちっぽけな人生と比較してやはり羨望の想いすら感じてしまう魔力がある作品です。
重苦しい作品ですが、読み応え十分です。今では安く手に入るのもいい。★5つです。
作者が考え抜いて描いた結末なのであろうが、個人的にはもう少し救いのある終わり方であってほしかった。現実はキレイごとではないのは判っているが、これでは子供のとき虐待された人間は一生その呪縛から逃れられないようで、あまりに悲しすぎる。その一生癒えないかもしれない傷を抱えたままであっても、せめてほんの少しの光でもいいから、希望を示唆する終わり方であったら、と感じた。
知的な印象のその人を見かけ、昔から知っているような気がして話しかけてみると、はたして知らない人だった。それどころか、なかなか心を開いてくれず、近づけない。ただ少し時間が経つと、その人がぽつりぽつりと話す言葉がすっと飲み込めるようになる。昔からその人を知っていたのではなく、その人が自分のことをずっと見ていたのだ。 舟越桂のつくる人に、いたるところで出会う。出会うたびにそんな印象を持つ。
本書に、手書きの断片が多くおさめられている。 「私は知性に姿を与えたいのか?(四捨五入のような言い方だが)05,7/5」 「人間の存在の解釈を加え、その解釈に姿を与えたという事だろうか?「異形」について、06,11/6」
素材に何かを見出し人の姿を与えている彫刻家が、そもそも自分が何に姿を与えているのか自分に問いかける。おそらく創作はそのような順番でしかなされえないのだ。
直木賞の選考では、選考委員の大先生方に「作品が長すぎる」「子供同志の会話が子供らしくない」等々の評価を受けたようであり、実際読んでみると、なるほどその通りである。しかし、その不器用さゆえ、読者に強いメッセージが伝わっているように思う。作品自体は過去と現在に起きた殺人事件を軸に展開するミステリーとなっているが、まず作者が作品を通して伝えたいメッセージがあり、その表現方法としてミステリーを選択したように感じた。とにかく「力」がみなぎった作品である。
原作を読んでから、このDVDを見ていただきたい。原作の意図を丁寧に汲み取り忠実に、小説の世界観を表現している。オープニングのヘリコプターで空撮された山のシーンと、町から孤立した児童養護施設のコントラスト。優希が海に入るシーン。それにしっとりと絡みつく芳醇な音楽。単なるテレビドラマの枠を超越している。この作品も、製作されて早10年。時が過ぎるのは本当に早いものだ。当時は携帯電話が本格的に1人1台普及し始めた頃で、通話料金が高かったため緊急の用事は携帯電話、何気ない電話は固定電話や公衆電話だったのだと思い返す。子供たちが園を卒業してからの詳細は原作でもあまり触れられていなかった。優希がどのようなプロセスで看護師になったのかが興味深かったのだが、これは読者の想像に任せるようで、触れられていない。音楽は坂本龍一、俳優、女優、いまとなっては一同に競演するのが難しい実力派ぞろいだ。今は亡き古尾谷雅人の狂気を感じさせる演技、その後の死を予感させられる。森本レオの温かい声。中谷美紀の透明感にあふれた美しい演技。今も個性派女優として異色の存在感を示している。石田ゆり子は、無理して明るく振舞う幸薄い女性の役が似合っている。こちらもいい女優になった。どちらの女優も声がいい。2006年、渡部篤郎は単身フランスに渡った。「ラ・ブリュイ・デテ・ア・ヒロシマ 24時間の情事」を舞台化するために。さらに難しい世界に飛び込んでいく。彼らは、この難解な作品に立ち向かうことで、その後の役者を続ける原動力になったのではなかろうか。生きることの難しさ悩み。バルザックやドストエフスキーを読まなくても、この作品で十分に学習することができる。ジャケットの写真が美しい。彼らの涙と苦悩の意味を考えながら原罪、人が祈ることの意味は何なのか、考えてみたい。この難解な作品を映像化しようとしたスタッフの高潔な志、勇気は、何者にも変えがたい。また、虐待などの難解なテーマにサスペンスのエッセンスをクローズアップすることで見やすくした製作側の配慮、文句なしの賞賛に値する。俳優とスタッフの想いが極度まで昇華した傑作として人々の記憶に残り続けるだろう。この作品は。
|