先行のレヴュアーの方の文章が、この3本の映画の素晴らしさを言い尽くされており、蛇足かともためらいましたが、この3本にレヴューひとつというのも淋しすぎると思いなおし、投稿することにしました。
まさに、3本とも日本映画の宝です!甲乙つけることもできません。1970年から1975年にかけての日本の姿が、日本人の写し絵が、心の有様が、人々の絆が、愛が、ここにあります。そこから私たちは、どんなに隔たってしまったのでしょうか。ひとびとの暮らしと心をたしかな目で見つめる山田監督と、スタッフ、キャストの皆さん、そして、協力された多くの地元の方々の、まさに愛情と力が結集した、奇跡のような3本です。
小津安二郎監督の第2作以降、1作を除き全作品に出演している著者が、小津監督を始めとする忘れ難い人々や出来事を語る貴重な証言集だ。最初はその他大勢だったのが、次第にフケ役で小津監督に抜擢される。年齢は1つしか違わないのに、徹底的に鍛えられ、何十回とNGを出すことが続いても監督の演出を信じ、小津監督を先生としか呼べない心境が吐露されるが、この師弟関係は麗しく、羨ましい。
本書は小津監督の素顔に触れるとともに、断片的だが、小津監督の名作がどのように作られたか、俳優として苦労した場面、見所等も解説してくれる。本書を読めば、晩春や東京物語等の作品も違って見えるだろう。小津監督だけでなく、原節子や杉村春子等の共演者に対する著者の眼差しも温かい。
本書はまた、小津組以外の、著者が一緒に仕事をした映画人や、蒲田・大船撮影所の雰囲気も伝えてくれる。サイレント期の映画人からヴィム・ヴェンダースまで印象を語るが、清水宏監督の評価が高いのはさすがだ。
口述筆記された本書は、映画の著者の台詞のような純朴さと独特のリズムがあり、気持ちよく読める。
私は最近、原節子という女優の希有の魅力と、小津安二郎の作品の面白さに目覚めた者だが、最初に手に入ったDVDがこれで、とてもラッキーだったと思う。原節子の女性としての魅力、女優としての実力が最高潮に達した『晩春』『麦秋』『東京物語』が3作とも収録されているのが何と言ってもうれしい。さらに、これこそが小津映画の最高傑作と言う人もいる『風の中の雌鳥』、脇役だが笠智衆の意外な芸達者ぶりが楽しめる『長屋紳士録』も入っていて、これらがまとめて2000円以下で手に入る。リマスター版ではないので、ノイズの気になる部分もあるが、それを差し引いても大満足のアンソロジーだ。
東京物語というけれど、東京そのものは、バスツアーの際に少し画面に現れるだけで、実際、東京という名を借りた現代社会に対するメッセージがこの作品の本質だ。
日本人としての美徳とされてきた親を思う気持ち、人を慈しむ気持ちが、現代社会の効率という名をかりた機械文明によって確実に失われていく様を、ごく普通の日常の一コマである老いた両親の上京という場面を借りて描かれている。
あいさつもしないし親にたてつく中学生。親を厄介者扱いして温泉宿に送り出してしまう娘。仕事優先の息子達。 母親の危篤の知らせを聞いても、他人事のよう。挙句の果てには、父親が先に死んでくれてたほうが便利がよかったのにと平気で言う娘。
それに対して、もっとも優しかったのは、亡くなった息子の嫁(原節子)だった。
彼女が最後に、田舎の娘に語るシーンがとても印象的だ。「私もいつかは変わってしまうのよ」「いやなことばっかり」。
それでいいんですか?
という質問をこの作品は問いかけている。
この映画でのテーマは結婚ではないだろうか?若い娘がいつまでも結婚しないことを心配し、家族や親戚が縁談を持ちかけてくるのに、本人が選んだ人物は昔から付き合いのある家の一人息子だ、という点が面白い。あまりに近くにいて今まで気づかなかった、というセリフが印象的。人生の多くの場面では、身近にあるものこそあまり気づかないことが多いのかもしれない。選んだ相手はいわゆるバツイチで、娘の家族らがそのことを心配している点に、時代錯誤を感じた。いまの時代ではそんなことはあまり気にならないのだが。一番大切な人と一緒になることが一番良いのだと改めて気づかせてくれる。小津監督らしい温かいタッチで描かれていて、とても面白かった。
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