29歳
「29歳の女性を主人公に」という
お題目のもとに書かれた8人の女性作家による小説集です。
芥川賞作家から気鋭の作家まで、
執筆者の幅は広いのですが
その力量の差がはっきりと分かるのが面白かったです。
山崎さんはパッチワーク的な構成が“山崎節”というか、いつもの感じ。
柴崎さんもいつもの感じですが、お題の年齢を意識して
ちりばめられてる「結婚」「出産」などの要素を除くと
ちょっと主人公が幼い印象を受けました。
中上さんの作品は、エンディングが「?」。
ヒロインの心の動きが私には読めませんでした。
野中さんは、一見ありえなさそうな設定が
とっても上手に描かれていて、読み終わってほっこりした気持ちになりました。
宇佐美さんも、私の読む能力が足りないせいか
ヒロインに血が通ってないような気がして、
作者が彼女をどう描きたかったのかが分かりませんでした。
栗田さんは、過去作品とはまったく異なる「一般OLモノ」の設定で
上司との会話や、親友との電話にリアリティがすごくあって
明日のヒロインがどうなるか、わくわくしました。
柳さんは、うーん、悪く言うと凡庸というか、そうですか・・・、という感じ。
登場人物の誰にも作者の愛がない感じがしてしまいました。
最後を飾る宮木さんの作品が、
個人的にはずば抜けて良かったです。
「社会的弱者としての派遣」みたいな
紋切り型ではない設定も良いし、
とても引き込まれた作品でした。
それだけに、336ページの誤植が惜しい・・・。
いずれにせよ、一読の価値はあります。
「29歳の揺れ動く気持ち」的な売り方はどうかと思いますが、
そうじゃない部分がむしろ面白い一冊です。
きょうのできごと (河出文庫)
読み始めの3ページ程は関西弁がしっくりとこない気がして、最後まで読めるかどうか不安になっていたのに、
気がつくと微笑みながらページをめくり、読みづらいどころかすらすらと進んで、
残りのページの方が少なくなっているのに気がついた。
時が経つとあの頃を思い出せなくなりそうな自分がいやで、映画をみた直後は原作を読む気になれなかったのに、
今は何の構えもなく心にすんなりと入ってきて、何度も読み直したくなる。
そんな、さわやかな作品に出会えてちょっと、こころがなごんだ。
本からはじまる物語
著名作家たちによる、「本」をテーマとした短編集。
何名かの好きな作家の名を見つけて読み始めたけれど、
結果的にはどれも面白く読めた。
ただ、予め「短編」という編集者からの指示のもと書いた依頼原稿、ということが
ところどころ透け見えるようで・・・
各作家の魅力を最大に発揮しきれていないところがやや残念。
とはいえ、ちょっとした時間に読む短篇集として、
知らない作家開拓の第一歩、としては最適な本。
モンキービジネス 2010 Winter vol.8 音号
特集は「音」。音楽だけでなく、音そのものの文学的な表現について、小説やエッセイ、対談が掲載されている。
独特のリズム感のある古川日出男は好きな作家だが、彼の「とても短い」というとても短い短編が心に(耳に?)残った。
その他では、柴田元幸氏が編んだ「音をめぐる五十二の断片」と彼と岸本佐知子氏、テッド・グーセン氏、小沼純一氏の対談がこの号のメイン。特に前者はなかなか印象的だった。よくもまぁ、ここまで集めた。
写真集・もうひとつの、きょうのできごと
通常映画のスチール写真は、
ひとりの写真家が撮って、
映画関連の写真集が出る場合も
その写真家の写真集として出る。
でも「きょうのできごと」は、
4人の写真家が撮っている。
しかもそのセレクトが独特で、なおかつ豪華。
映画のポスターでは、
4人の写真家それぞれに1枚のポスターが作られていた。
この本の中では、当然ながら他のカットが見れる。
特に秀逸なのは、最初に収められている野口里佳の写真だ。
被写体は、妻夫木君と田中麗奈。
何となく関東近県(茨城とか、中川)をイメージさせる水際に
2人がいる。梅雨頃なのか、空は曇っていて、
もしかしたら雨も降っている。
野口さんの写真は、要素が完璧に整理され、
構図、フレーミングが絶妙で、色感が最高。
要素はミニマムに整理され尽くしているのに、
なぜかいつも彼女の写真には、生き物感というか、
地球という環境(バイオスフィア)が映し込まれている。
まさに「きょうのできごと」って感じだ。
遠くで淡く霞む地平線と、
手間に写っている2人が、等価値で存在する、
その豊かさは、あまりにも味わい深く、言葉が不要になる。
それと本の最後に登場する、
男の子3人が、元気に銭湯に入っている
吉永マサユキの写真も素敵だ。
銭湯が天国みたいに見える。男の子たちも楽しそうだ。
本全体の端正なデザインも優れている。
マッチ(町田覚)によるものだが、
丁寧な写真集を作り続けている彼らしい仕事。
映画『タイムレスメロディー』も彼がデザインを担当して、
すぐれたグラフィック展開になっていたが、
その延長上にある優秀な表現。