猟奇刑事マルサイ
確かなデッサン力に基づく美麗な絵を描きながら題材は猟奇、オカルト、変態、と言うアンバランスさが魅力の大越孝太郎氏。
氏が特殊能力を持った猟奇異常犯罪専門の部署、通称「マルサイ」を狂言回しとした連作短編です。
どこか題材を突き放した様な血の薄い感覚が「天国に結ぶ戀」辺りから漫画的な感情のウネリを描く作風にシフトしたかの様に見えた大越氏ですが、本作はまた、昏睡、四肢切断、人間椅子、拉致監禁、ゴミ屋敷、ストーキング、ラブドール、そしてSM調教と言ったおどろおどろしい題材を驚く程耽美的に描いて居ます。
変態倶楽部潜入捜査、AV、昆虫、そして肛門愛好者と超感覚の持ち主と言う設定のマルサイの面々はあくまでも狂言回しで、毎回登場する多彩な猟奇犯罪者達が主役です。
数多くの未完作が有る芸術家肌で完全主義者の大越氏らしく、内容にややバラつきが有りますが、収録作では
・ノーマルなカップルが極限状況に陥る事で禁忌を犯す「プロジェクトX・挑戦者たち“地底の星”」
・マシンの如く勤勉な拉致監禁マニアの鬼畜を迫真の筆致で描いた「ラチカン」
・精巧なラブドール(素材とデザインに凝ったダッチワイフの進化形)の連続遺棄事件の陰に潜む犯人の孤独と狂気に迫る「シリコンラバー・ドーターズ」
・帯に推薦文を寄せた人間椅子の和嶋慎治氏と乱歩に対するオマージュ溢れる『人間按摩椅子』
・氏の耽美趣味が炸裂したカリスマSM調教師達の人知を超えた業前と間接的な戦い(どちらが最高のM女を作り出せるか)を描いた「孤高の鬼」
が読み応え御座いました。
掲載誌の発表順を変え、巻末に「孤高の鬼」の素晴らしい見開きを持って来た構成は見事です。
一時的では無く、一生アウトサイダーとして過ごす覚悟、矜持、幸福を示した傑作エピソードでした。
青林工藝社刊「フィギィッシュ」に本作の設定を詳しく説明した1話、肥満女性を洗脳・奴隷化してダイエットさせる青年医師を主人公とした2話が掲載されて居ます。
ここ数年、執筆ペースが落ち講談社の鬼子漫画季刊誌「NEMESIS」上の連載予告もいつの間にか消えてしまった大越氏。
どうかまた作品を発表して頂ける様、お待ちして居ります。