小説の自由 (中公文庫)
この本は、自分の読んでいた、読み続けていた本に対する誤読を開陳させられ、苦しい気持ちになる時があります。テーマや物語の社会性や新しい文体でデビューした変な新人、などに狂わされた文学界からは、ほど遠い地平で思考している。それは、大変孤独な作業だとおもいますので保坂さんはちゃんとした人(作家)だと思う。カフカの引用はとても明解で、あの文章の強度をちゃんと見つめている作家はあまりいないと思う。文章の内面から滲み出てくる強度という点ではカフカの引用によって照らし出された最後の部分は恐ろしいくらいのリアリティを越えた現実として、この本の一部を強くものがたっている。
季刊 真夜中 No.15 2011 Early Winter 特集:物語とデザイン
ひと味違う季刊の文芸誌。ナンバー15ということだが、創刊以来、欠かさず購入している。毎回、特集に工夫を凝らしているのが特長だけど、今回は、物語とデザイン。サブタイトルは「創作・明日の絵本」。
もともとデザインにはこだわりのあるこの雑誌だけど、今回は特にそう。絵本(というか絵のある物語)がいくつか収録されているが、その中でももっとも良かったのが、祖父江慎の「ピノッキオ」。知らない人はいない「ピノッキオ」だけど、今回収録されている物語は、最初に書かれたものだそうで、私が知っている人情味あふれるストーリーとは違うとてもブラックなピノッキオ。まさに大人の絵本。絵もそんなブラックなピノッキオにふさわしい。
そのほかでは、長島有里枝と内田也哉子の「子供の絵本、私の絵本」が良かった。子供にも大人にも読ませたい絵本の数々を写真と対談で紹介している。
次号はリニューアルに向けて休刊ということだが、リニューアル後も期待したい。
書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)
まさしく、書きあぐねている一人のモノカキとして、この本を読ませていただきました。
これまでも、小説入門と銘打つ本をいくつか読ませていただきましたが、大体はストーリーの組み立て方、登場人物の作り方、風景の書き方など、書き方のハウツーを中心に書かれているものが多いです。
でも、いくら書き方を学んだところで、それは『どこかで読んだ内容』『どこかで見た表現』であって、お手本ありきの習作にすぎない。
結局出来上がったものも、創造性のない、どこか面白くないものになってしまいます。
この本で、保坂さんは、そのようなハウツーの話は一切しません。
代わりに、一人のプロの小説家として、それらの問題にどのように向き合い、力を振り絞って、独自の文章を紡ぎだしてきたかを赤裸々に語っています。
そこには、独自性のあるモノを書きたいと思っている人なら必ずぶつかるような、悩み、ふがいなさ、苦労が存在し、彼がそれをどのように乗り越えたかが、読み進めるにつれて実感できます。
モノを書きたいと思う人の、心の中のもやもやしたものに焦点を当て、彼なりの答えと考えを真正面から示す。
悩めるモノカキにとって、そんな有り難い本はめったにありません。
もちろん『書きあぐねている人』には、アマチュアからセミプロ、もうすぐ新人賞という人までスタンスは様々だと思いますので、誰にでも完璧な答にはなりえませんが、それでも本気でモノカキに興味があれば、読む価値は十分にあると思います。
オススメです。
(逆に、書くことに興味がなければ、保坂ファン以外にはあまり意味がない内容だと思われます)
季節の記憶 (中公文庫)
この小説を長編大河散歩小説と呼んだのは保坂氏本人です。
独特の長いセンテンス、稲村ケ崎に流れる穏やかで雄大な時間、なんとも愛らしい登場人物、等々。
すっかり保坂ワールドに引き込まれてしまう。
登場するロケーションは全て実在の場所で、家が近い事もあるのだけれど、とても優しい気分にしてくれる大事な作品。
芥川賞受賞後の作品で平林賞と谷崎賞を受賞。
たしかに読むのには根気がいる。
もしかしたら途中で嫌になってしまう人もいるのかもしれないけれど、
大好きな人にはこれを読んでもらって感想を聞きたくなる。
感性の接点があるかどうか興味があるのだ。
一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))
この本を読んで、文章力が上がるとか。そういうことではない。
これは、そういうスキルアップのための本ではないです。
「小説とは何か」という部分から問いかけて、
こころで思っていることを文章におこす、ということを1から教えてくれる本です。
文章を書いて何かを人に伝えよう、という思いを既に知っている人には不要の本かもしれません。
今まで文章を書こうなんて思いもしなかった方にオススメしたい。