季刊 真夜中 No.15 2011 Early Winter 特集:物語とデザイン
ひと味違う季刊の文芸誌。ナンバー15ということだが、創刊以来、欠かさず購入している。毎回、特集に工夫を凝らしているのが特長だけど、今回は、物語とデザイン。サブタイトルは「創作・明日の絵本」。
もともとデザインにはこだわりのあるこの雑誌だけど、今回は特にそう。絵本(というか絵のある物語)がいくつか収録されているが、その中でももっとも良かったのが、祖父江慎の「ピノッキオ」。知らない人はいない「ピノッキオ」だけど、今回収録されている物語は、最初に書かれたものだそうで、私が知っている人情味あふれるストーリーとは違うとてもブラックなピノッキオ。まさに大人の絵本。絵もそんなブラックなピノッキオにふさわしい。
そのほかでは、長島有里枝と内田也哉子の「子供の絵本、私の絵本」が良かった。子供にも大人にも読ませたい絵本の数々を写真と対談で紹介している。
次号はリニューアルに向けて休刊ということだが、リニューアル後も期待したい。
ピストルズ
「神町サーガ」三部作の第二作目にして、かつ一作目の「シンセミア」だけでなく「グランド・フィナーレ」「ミステリアス・セッティング」「ニッポニアニッポン」などとも関連性のある大作。……ってもうどんなことになるのか、身を乗り出していたら、何とも不思議な小説でびっくり。一子相伝の秘術を伝える悲劇の一族の壮絶なできごとや、このことが神町に引き起こした壮大な惨劇を扱いつつ……物語は少女小説家の何ともガーリーな語り口で、花や果物の楽園での出来事から語り起こされるのだ!いやー、もう阿部和重にはいつも関節はずされます。
この一族の系図を語る前半の長い長い物語(四人姉妹と四人の母親!)が何とも馬鹿馬鹿しいおもしろさに満ちていて(八十年代的なできごとを非八十年代的な言葉で語るおもしろさと言うのか)、血なまぐさい「神町サーガ」を読んでいることをふと忘れてしまう、そのこと自体がおもしろいと言うか、「えーっ、でも『グランド・フィナーレ』や『ミステリアス・セッティング』を閉じられたひとつの物語として読んじゃった過去の自分はまるで菖蒲家の秘術にかかってたみたいでかわいそう!」と騒いでみたりして。まんまと作者の戦略に乗せられてしまったよ。……まあ、菖蒲家の秘術ですべてを忘れさせられるわけでなく、本棚を開ければどの本もすぐ読み返せるのだから、いいんだけど。
それでも懲りずに、と言うか、それだからこそ一層、結末となる第三作はやっぱり、四人姉妹の異父兄弟カイトを中心に進むのかなあ……みずきがなぜか妙にカイトを好きっぽいのは、最後に一大ロマンスがあるからなのか……といろいろ期待してしまう。と言うかもうこうなったら、同時代の読者の最大の特権として、期待を上手に裏切られることを期待。
たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)
「たけくらべ」「やみ夜」「十三夜」「わかれ道」「うもれ木」の現代語訳版が収められています。「樋口一葉の作品は読みづらい」「途中で投げ出してしまった」などという人も多かったので、現代語で出されたのは良いことだと思う。「たけくらべ」のみ文体は全く変えずに現代語訳してあるので(訳者の作品に対する思い入れが強いためらしいが)、そこは賛否両論あるかもしれない。樋口一葉を読みたいと思っている人はまずこの現代語訳版を読んでから原文に当たることをお薦めしたい。日本を代表する作家です。
ライフ・アクアティック [DVD]
ロイヤルテネンバウムスの監督さん。
今回も「なんか変」な雰囲気と「なんか変」なビジュアルで、意外と根っこはシリアスなテーマを描きます。「なんか変」なのに、ちょっとホロリとしたりもします。
ウィリアム・デフォーがずっと半ズボンなのと、ベラフォンテ号の断面図セットが好きです。
豪華出演者のしれっとした演技と嘘の海洋生物も「なんか変」で好きです。
音楽もよいし、色もよい。
あのユニフォームを着てみたい気持ちになります。
アメリカの夜 (講談社文庫)
主人公が考えている内容だとか、まわりくどい言い回しだとか、語り手と主人公が分裂しているところだとかがまさに私と似通っていて、読みながら「お前は俺か!」とツッコんでしまった。特に感動してしまったところは主人公・唯生がツユミに恋心(のようなもの?)を抱いたときに放った言葉(本書p59〜65)。だがしかし、同じ箇所で同じように感動する人がどれだけいるのだろうか…。
個人的にはかなり好きな作品だが、あまりオススメはできない。よくわからない人にはわからないように書かれてしまっているし、そういう人にはページを捲るのが苦痛ではないかと思う。