私立探偵 濱マイク 10 竹内スグル監督「1分間 700円」 [DVD]
TVシリーズの濱マイクでは、「ミスターニッポン」と「1分間700円」が特に印象に残った。エンタメに徹し、ハイクオリティな映像と洒落た演出を見せた前者、そしてこの「1分間700円」は緊張感を保った画面とストーリー、役者と出色の出来だったと思う。
画面は陰影を強調し、緑のライティングを効果的に使って鮮やかに赤を浮かび上がらせている。
やまだないとの脚本は笑いに逃げずにシリアスなストーリーを完結させた。12本のシリーズ中、意外にこの緊張感を保った路線は少なかった。
BGMは「ハワイ航路」やジャズピアノが記憶に残るが、地味なところで音響テクノが活きている。DVDではTV版と少し違っていたが。
浅野と永瀬の共演も面白い。
浅野は狂気がかかった「素」を演じさせると実にハマる。また、声だけの子役も雰囲気十分。
柄本は特にクライマックスの、死と隣り合わせに絞り出すセリフ、これを受けて立てるだけの度量を持った役者としてチョイスされたと個人的には思っている。
メインでない登場人物(の出番)を極力削ぎ落とし、「ストーリーの手応え」を追求した姿勢には好感が持てる。
オマケはメイキングと予告、OPは入ってない。
よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり
『大奥』を読んでクラクラしていたので、これも読んでみました。
対談者の萩尾望都さんと羽海野チカさんは個人的に敬愛してやまない作家であるというの
もあります。
羽海野チカさんとの対談は、原作者ゆえの葛藤と喜びについて深く語り合っており、自分
のような素人にはちょっとキツメかもですが、対談冒頭の二人の馴れ初めについては、そ
れこそ「ほほう」と感じ入りました。ここは、是非現物のご一読をおススメします。それ
から、様々な組み合わせをあげていくやおい談義は達人同士の立会のよう。
萩尾望都さんとの対談は、冒頭の『NANA』の話題からして、2人とも並みの読み手ではな
いことがよくわかります。本人を前にして、堂々たる作品論(時間軸の交差など)を展開
するよしながふみさんは、半ば微笑ましいのですが、萩尾望都さんはあまり評論めいたこ
とをいわないながら、読み手としての底知れなさがひしひしと伝わります。話の流れで、
永井豪はともかく本宮ひろ志が引き合いに出すのはかなり予想外です。
さらに、『ベルばら』を(連載時に)ライブで体験したかったと悔やむよしながふみさん
へ「今だと『テレプシコーラ』をライブ感たっぷりに大騒ぎしています」と返す萩尾望都
さんに、深くうなずいてしまうのでした。普通だと、こういう風には語れないでしょう。
この2人の対談に限らず、全体として、とても興味深いです。良し悪しは別にして、対談
相手のことよりも、よしながふみさんのことがよくわかるような気がします。
西荻夫婦 (フィールコミックスGOLD)
結婚して夫婦になる、という事に対する受けとめ方、感じ方は人それぞれなんだろ
うけど、こういうのもあるんだなぁ、と思った1冊。
一人になると二人を感じる
よかった まだ わたしたちは他人だ…
作中より
恋愛の延長線上にある結婚生活もあれば、個人を尊重するそれもあると言うことだ
ろうか。いや、ちょっと違うか。この2人はお互いに依存しないでいながら、頼り合
っているのか。微妙な関係に見えるが、それは第3者の読者(この場合私)から見る
からなのであって、当人達にとっては自然に、息をするように当然のことなのかもし
れない。
夫婦2人でいることの自然さ/不自然さ、当然/非当然、安心/不安、−そんなも
の達を描き出している作品。2人は不自然さ、非当然、不安ってのをマイナス要因じ
ゃなくて、あって当たり前のもので受け止めている。ポジティブシンキングなんかじ
ゃなくて、自然に受け止めている。
言えるのは。
彼しか許してくれないだろうということ。
愛情は日常。
わたしが誰よりもわたしを選んで生きていることを彼にだけ許された気がして、そ
の時以来もう何年もわたしは彼と一緒にいる。この先も彼しか許してくれないだろう
と思う。
このうしろめたさ。
作中、文章より
愛情が日常になるのならばそれは他では得がたい幸福だろう。「許してくれ」る人
と一緒ならばなおのことだ。それなのに後ろめたい気分になるのは、それはやはり伴
侶を一個人、人間、他人として尊重しているからなのだろう。
許しを求めている人は世の中にたくさんいると思うけれども、許してもらいたい事
(罪なんかじゃなくても)の種類によって救いは日常の中にある、という事を示唆
している。それに伴う後ろめたさ? 処理は、まぁ個人個人で。
縁遠さん
この本の装丁は非常に凝っています。
くすんだ色合い、昔の姉妹社が使っていたようなフォントなど、結構手が込んでいますが、結果は古本屋の3冊100円棚に並べられているような、ただ風雨にさらされて古くなっただけの感じがします。
考えすぎて、結果変な方向に進む、まさにモテない系を地で行くような姿です。
エリ 従姉弟関係 [DVD]
福岡監督は凄い才人である。ユニット5の一人として鮮烈なデビューをピンク映画の世界で飾った彼の仕事はいつも堅実だった。
もうあれからどれくらいになるだろうか。普通ならもう枯渇してもよいくらい。しかし福岡監督の作品がみずみずしさを失う事はない。
この「エリ」もそうした堅実な職人の仕事である。風のように自由であるようで、実ははげしくよりどころを求めている女を松尾玲央は見事に演じている。そういう彼女の生き様が、堅実なようで壊れた崔哲浩演じるいとこの人生を変えてゆくさまの描写が簡潔にして明快に描かれる。
堂々たる演出ぶりで、飽きる事がない。そんな二人を囲む、やさしさとまたそれゆえの残酷さに生きる人間群像の描写も冴え渡る。
福岡監督、まだまだ衰えなしと言わざるを得ない。