悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)
私は澁澤龍彦の大ファンで、氏の作品(本書のような訳書も含め)はあらかた読みました。
ぜひタイトルや「サド」という名前に躊躇することなく、読んでほしいと思います。
・非常に読みやすいです。澁澤龍彦氏の訳の巧さが味わえます
・少しくどい哲学論議がありますが、この部分が本書の肝です。飛ばさないで読んで下さい
多くの人が思うほど、「大袈裟な」モノではないです。お気軽に読んでほしいと思います。
エロティシズム (ちくま学芸文庫)
フロイトの関連著作と並び、エロティシズムに関する基本的文献と目されるものである。翻訳は概ねわかりやすいが、「内的体験」「至高性」「連続性」「不連続性」などバタイユ独特の用語が頻出するので、理解を助ける意味で、訳者による用語解説もかねた簡単なエッセイが巻頭にあれば尚良い。女性をあくまで客体としてみたり、娼婦を動物的存在と捉えるような見方は今となっては少々古臭いが、意識の及ばぬ領域としてのエロスの存在と、禁止と侵犯の関連についての論考は普遍的な意義を持つ。酒井訳も悪くはないが、私は澁澤訳を読んでないので、なんとか手に入れたいと思っている。
万有引力VOL.2 1983-1993
このCDには演劇実験室・万有引力の旗揚げ公演「シナの皇帝」から93年公演「大疫病流行期」までの曲が数曲づつ収録されています。
比較的、雑多な印象のあった前作vol.1に比べ、堅実な作りの作品に感じられる。
シーザー自身の歌唱もある一曲目の「引力零年」~シナ大滅亡をはじめ、名作「身毒丸」で素晴らしいソプラノを聞かせた塩原昌代さんの歌唱や、天井桟敷からそのまま移籍した俳優陣など、
83年から93年という時期は劇団が非常に安定していた時期なのだろうと推測され、全編にわたり非常に高いクオリティを保っています。
そして新生asian crackの活動第一作であった前回と違いノウハウが掴めたためなのかはわからないが、ブックレットの作りなども前作に比べ向上しているような気もします。
また、元来後追いのファンにとって空白期であったこの時期の楽曲のCD音源化というのは、もはや値千金としか言えないでしょう。
少女革命ウテナなどに使われた楽曲に見られた万有引力の中期以降の音楽と天井桟敷時代の音楽に関しては従来一部のファンによって音楽性の変化が指摘されていましたが、この作品の発表によってその謎はほぼ解かれたと言えると思います。
シーザー自身の発言に、寺山脚本の不在による力不足を埋めるため、合唱曲を多用する万有引力スタイルとも言える演出が生まれたとの言があるが、その音楽性は本質的に何も変わっていないといえるでしょう。
天井桟敷時代は寺山作品を演出するための音楽。万有引力時代は劇の傾向ががより難解でシュルレアリスムに傾倒した傾向があり、楽曲の歌詞には澁澤龍彦等からの引用も多い。それにあわせた演出をするための音楽というのが万有引力期の音楽なのだろうと思われます。
70年代後期以降のシーザーの音楽は多少の変化はあれど、別に時代の変遷による隔絶、乖離がみられるわけでなく、その変化は演出する題材の違いに過ぎないように感じられました。
状況劇場 劇中歌集
1984年に発売されたカセット・テープ『音版「唐組」紅テント劇中歌集』(構成・監修・唐十郎、唄・李麗仙ほか、プロデュース・小室等、パルコ出版)が、ようやくCDで復刻された。1967年(昭和42年)「ジョン・シルバー」から1981年「お化け煙突物語」までの主要曲が、製作時点での再録及びテレビ番組録音も含め上演年順に並んでいる。曲間には当時の舞台を振り返る唐十郎と嵐山光三郎のDJが入り、澁澤龍彦 、渡辺えり、扇田昭彦、村松友視、衛紀生、清川虹子、蜷川幸雄のライナーも復刻され、新たに唐十郎、安保由夫の書き下ろしが加わるという豪華版だ。
アルバム冒頭とラストの山下洋輔トリオの演奏と状況劇場男性コーラスによる「よいこらさあ」は、伝説の新宿ピットイン「ジョン・シルバー」初演時の音ではなく、17年後の再録のようだ。山下(ピアノ)、中村誠一(サックス)、ドラムスが豊住芳三郎から小山彰太に代わっているとはいえ、当時の状況(劇場も含めて)を髣髴とさせる。そうなのだ、この音やこの感覚が新宿を中心として展開し始めていたのだ。残念だがオイラこのピットインでの初演を見てはいない。上京すればピットインに立ち寄るようになったのは、その公演直後からなのだ。
この頃、相倉久人は「すべての既成芸術は急速にエネルギーを失いつつあり、次代をになうイデオロギーは、行動が思想を生み出していく」として、「状況劇場――若松プロ――ジャズというライン」を提示し、「それは、小劇場――アングラ――商業主義的ジャズに対するアンチ・テーゼである」と状況劇場の公演チラシに書いている。地方のハイティーンとしては、新宿で渦巻いている熱気そのものを「アングラ」と思っていたのだが。実際、三者のジャンルを超えた相互浸透は、絵画、音楽、小説などの他ジャンルを巻き込み、時代が変わっていくこと、また変わりつつあることを実感させていった。
さて劇中歌に戻ろう。当初は唐独自の詩に依ってはいるが、ほとんどが替え歌であった。当時、フォークの六文銭リーダー小室等が曲を担当することにより、オリジナルの劇中歌が生まれてゆき、劇中音楽のスタイルを形作っていく。そして状況劇場座付作曲家とも言うべき安保由夫により、魅力的な劇中歌とエンディングのカタルシスという、状況劇場ばかりでなくアングラ演劇独自の劇中音楽スタイルが確立することとなったのだ。以後多くの劇団がその音楽スタイルの影響下に演劇活動を展開した。現在、状況劇場の流れを汲む新宿梁山泊にもそのスタイルは継承されている。
快楽主義の哲学 (文春文庫)
1965年に光文社のカッパ・ブックスとして出たものの文庫化。
カッパ・ブックスという出自に違和感を覚えるが、内容はいかにもというハウツー本っぽいつくりになっている。著者がまだ30代半ばで書いた本であり、のちには「忘れたい本」とも言われたらしいが、それなりに澁澤色が出ており、ファンなら読んで損はないと思う。
内容は、快楽主義とは何かを紹介し、その実践法を紹介するもの。サドや『さかしま』、エピクロスなどを取り上げ、そこに同時代の日本の世相を並べてみせる。チャート式で理解しやすいように書かれており、かなり親切なつくりだ。
過激なまでに快楽を追い求めることを標榜しており、1965年当時の日本ではかなり衝撃的だったのではないだろうか。けっこう売れたらしい…。