ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)
キリスト教の歴史や背景、絵画や建築物など詳しい説明を交えても、
退屈せずにうまくミステリに組み込まれて読ませてくれます。
ダ・ヴィンチ作品の謎はテレビなどでも時折やっていたけど、
本当に複雑で解釈の仕方は数多くありそう。
ほぼ史実に基づいてるらしいので、
なんか勉強した気になれるお得感もあります。
亡国のイージス 下(講談社文庫)
上下巻に分けてしまうと、どうしても上巻は登山・下巻は下山という印象が漂ってしまいがちです。上巻で構築した仕掛けを下巻でどう解きほぐしていくのか、というやや意地の悪いスタンスで読み始めました。この類の小説では着地地点の大前提はある程度みえているので、前半以上の筆力が要求されるわけですが、登場人物それぞれのドラマが緊迫しているので、その点期待は裏切られませんでした。(物語の性格上具体的に書けないのでもどかしいですが)スト-リ-展開としては、やや力の抜けるような筋立てもありますが、それぞれの人物のドラマにきっちり落とし前を着けてあり、納得の幕切れでした。ラストシーンについても、あまりに映像的な終り方で、別なやり方もあるのでは…という気もしますが、これはこれで圧倒的に美しい。爽快な読後感を狙えばこれが最高でしょう。読破したくなる若手の作家に、久々に巡り会いました。…願わくば、映画化でイメージがぶちこわしにされないことを。
Deep River
デビュー当初の背伸びしたクールな感覚が影を潜め、等身大の生身の宇多田ヒカルの姿がここにあるように思う。歌はより現実味を増し生々しくなった。彼女ならではの言葉遊びやユーモア感覚の裏に心の闇がふっとよぎる。そこはかとなく漂う痛みや苦しみに一般の十代の少女と何ら変わりない彼女の暮らしがかいま見られるようだ。唄っていることは至極普遍なことなのに、それを凡庸にしないセンスは流石。ラストにシングルの「光」を持ってきたことでこの曲の意味合いがより深まったように思える。ただ、前二作ほどの強固なエンターテイメント性は感じられず私小説的な側面が強いこともあり、全体としてディープな印象なのでそれを好むか好まぬかは聞く人次第かも。歌詞は尋常でない出来だけどね。
“It”(それ)と呼ばれた子 幼年期 (ヴィレッジブックス)
虐待関係の本ではどんな切り口から見ても一番だと思います。
時系列にもブレがなく、翻訳本に感じがちな微妙な違和感もありません。
壮絶な虐待を経験していながら、虐待に関わった人を恨む事なく、虐待の連鎖を繰り返す事なく今を生きる著者の強さに感銘を受けます。
何冊も続編的に出ているので、「ペルザー家 虐待の連鎖」まで含めて最後まで読むのを勧めます。
それでやっと救われる気持ちになれると思います。